第5章 隠せない隠さない
あれだけあった甘味はあっという間に杏寿郎さんによって完食された。いや、もちろん千寿郎さんも私も結構な量を食べたがそれも杏寿郎さんの比ではない。
お茶を飲んで一息ついている杏寿郎さん。渡すなら今だ。
「あの‥杏寿郎さん」
「なんだ!」
「炎柱就任おめでとうございます。これ、心ばかりの品ではあるのですが私からのお祝いです」
すっと両手で差し出すと、杏寿郎さんは嬉しそうに受け取ってくれた。
「うむ!よもやお祝いの品をもらえるとは!ありがたく頂こう!」
受け取るのを断わられたら‥と少し心配していたものの、そんな様子は一切なく杏寿郎さんは大切そうに受け取った包みを見ていた。
「開けても良いだろうか?」
「もちろん」
返事を聞くなり杏寿郎さんは丁寧にその袋を開け中身を取り出した。
「なんと!美しい組紐だ!大切にさせてもらう!しかし何故2組あるのだろうか?」
「ひとつは杏寿郎様に。もうひとつは、千寿郎さんに差し上げてください」
にこにこと杏寿郎さんと私のやり取りを見ていた千寿郎さんは、まさかここで自分の名が出て来ると思っていなかったのだろう。ポカンとした顔でこちらを見ている。
「お2人に似た、お揃いの組紐です。杏寿郎様、千寿郎さんお二人の絆が決して切れることないよう願いを込めて選ばせてもらいました」
本当は、もつひとつ同じものが欲しかった。けれど店の主人に尋ねたところ、本来は一点物だったががなんらかの理由で二つできた物だと言っており同じものはもうないそうだ。そう言われてしまえば仕方ないと諦めた。
「‥僕にまで。本当に頂いて良いんですか?」
「うん。千寿郎さんに‥受け取ってもらいたいの」
杏寿郎さんは二つのうちの一つを千寿郎さんに手渡す。組紐を受け取った千寿郎さんは、大切なものを扱うようにそれを受け取ると、小さな組紐をぎゅっと抱きしめていた。
「ナオ‥心より礼を言う。素敵な贈り物をありがとう」
「ナオさん、本当にありがとうございます」
2人並び、よく似た顔で、よく似た笑顔を向けてくれる2人を見て、私はこの2人の絆をなんとしても守りたいと思った。
「‥喜んでもらえて‥嬉しいです」
「俺も君に渡すものがある!」
そう言うと杏寿郎さんはスッと隣の部屋へと消えて行った。渡したいものとはなんだろうか。