第5章 隠せない隠さない
どんどん近づいて来る師範。これは絶対口付けられる流れだ。待って。まだ心の準備が全然出来てない。
「‥師範‥っ!待ってください‥っ!」
なんとか顔を逸らしつつ言うと、迫ってきていた顔がぴたりと止まる。はぁ良かった。止まってくれたと思っていたのも束の間。
「‥杏寿郎と、呼んではくれまいか?」
そう言って私の頬に優しく触れ、顔を元の向きへと戻されてしまう。そして再び近づいて来る師範の顔。
「‥杏寿郎さん‥っ!待って下さい‥っ」
「無理だ」
なんとか絞り出した声も一蹴され、もはや覚悟を決める以外の選択肢はない。
フニっと私の唇と師範の唇が触れ合う。すると一気に強張っていた身体の力が抜け、なんとも言えない幸福感が胸を満たす。甘くて、切なくて‥キューっと胸が締め付けられる。
程なくして師範の唇は離れていき、心地よい沈黙が2人を包む。
「よもや‥これは癖になってしまいそうだ。もう一度、口付けても良いだろうか?」
そんな恥ずかしいこと、出来れば聞かないで欲しい。
「‥はい‥‥」
2回目の口付けは、さっきよりも早急で師範がの頬に触れる力も強かった。
その後ももう一度、もう一度、と結局4度口付けられた。終いには「これ以上すると止まららなくなりそうだ」なんて物騒なことを言うものだから慌てて身体を離した。
「あ!そう言えば私が落とした包み!師範が拾ってくれたんですよね?」
明らかに聞こえているはずなのに、師範はニッコリとこちらを見てはいるが返事をしてくれない。
「さっき甘味と一緒に持っていましたよね?」
‥やはり答えてくれない。
「師範?」
なぜ返事をしてくれないのかと考えを巡らせる。もしかして‥と思い思いついたことを試してみる。
「‥杏寿郎さん‥?」
「うむ!確かに拾った!」
成る程。名前で呼ばれたかったのか。
「だがここにはない!千寿郎に一緒に渡してしまった!」
「そうなんですね」
まぁどうせ千寿郎さんにも渡すものだし、この後師範と‥杏寿郎さんと一緒に取り行って2人一緒に渡せば良いか。
「‥話は戻りますが、私も‥杏寿郎さんと‥生涯を共にできたらと思います」
「そうか!ならば」
「でも!それは‥槇寿郎様にきちんと認めてもらってからが良いです」
私のその言葉に師範は珍しく眉間に皺を寄せていた。