第5章 隠せない隠さない
「‥どうしてそれを‥」
「立ち聞きするつもりはなかった。だが柏木を外で待っていたところあの隊士達が来た」
成る程そういうことか。あんな酷い言葉、師範の耳には入れたくなかったのに。
「昔から散々言われてきた。これもこの家に産まれた者の定め。君が心を痛める必要はない」
だからもう泣かないでくれ。その言葉に私の涙は止まるどころかより増える。
「よもや!なぜ余計泣く!」
違う。悲しいから泣いてるんじゃない。あの2人が、今まで師範にそんな言葉を浴びせてきた人達が許せなかった。
今まで知らなかったが、私は怒りが頂点に達すると泣く性分らしい。なんとも情けない事だ。
「‥私‥」
私の声が小さくて聞き取りにくかったのだろう。師範は畳横一枚分ほど空いていた距離を詰めて、膝がもう少しで当たるくらいまで近づいてきた。
「ん、どうした」
いつもはせっかちな師範が、私が喋り出すのをゆっくりと待っていてくれる。それが少し嬉しかった。
「‥私‥あの2人が、師範にそんなことを言ってきた人が許せません。‥師範がいくら定めだから平気だと言っても‥心が傷つかないわけじゃない‥悲しくないわけじゃない‥。私は‥私の大切な人を悲しませる人達が‥許せません」
自分が言っていることが、もはや"あなたが私の大切な人です"と、言っているようなものだとは理解できた。でもどうしてもそれを師範に言いたかった。
「私は‥師範のことが誰よりも大切です。‥誰よりも好きなんです‥」
こんな形で伝えるつもりではなかったのに。
「明日もし私が‥師範が‥死んでしまったとしても‥少しも後悔しないくらい、師範のことが好きだって‥毎日伝えたいんです」
大好きな人に、大好きだと伝えたい。
「‥その許可を‥私に‥もらえませんか?」
‥師範が何も言ってくれない。
私は何かおかしなことを言ってしまっただろうか?いや、そもそも師範も同じ気持ちかも‥と思っていたことがやはり間違いだったのだろうか。
不安になり恐る恐る師範の顔を見る。
「‥っ!」
師範はただでさえ普段から目力のあるその目を、いつも以上に見開き私を凝視していた。
「‥っあの‥‥何か‥言ってもらえないでしょうか‥」
私のその言葉に師範は我に帰ったようにビクッとする。その反応に、思わず私もビクッとしてしまう。