第5章 隠せない隠さない
「取り消せ!謝れ!!」
周りが騒がしくなっていることはわかった。でもそんな事はどうでも良かった。胸ぐらを掴まれている男は、息が苦しくなってきたのか「離せ」と苦しそうに言うのみだ。
「っちくしょう!この馬鹿力‥こいつを離せっ!」
男の拳が私に向かってくる。それもどうでも良い。とにかくこいつらにさっきのクソみたいな言葉を取り消させたかった。
「‥取り消せっ!!」
怒りでいっぱいのはずなのに、涙がボロボロ止まらない。
男の拳が私の頬を打とうとしたまさにその時。
「柏木、いい加減その隊士を離してやりなさい」
大好きな人の声が聞こえた。
「‥っお前は」
頬に当たると思っていた男の拳も、その手に掴まれて私まで届く事はなかった。
「‥‥師範‥っ」
腕の力が一気に抜け、私の腕から解放された目の前の男はゴホゴホと咳き込んでいる。
「俺の継子がすまない!彼女の代わりに俺が謝ろう!」
こんなやつらに師範が謝る必要なんてないのに。男達は突然の師範の登場によっぽど驚いているのか一言も発しない。
「だが、君たちのせいでこの子はこんなにも悲しんでいる。今度この子を泣かせてみろ‥次は容赦しない」
その師範の言葉に縮み上がった2人は、「申し訳ありませんでした!」と言って猛スピードで逃げていった。
「騒がせてしまい申し訳ない!お詫びに今出ているものを全部買おう!」
師範は何にも悪くない。悪いのは私なのに。
師範は何も言わずにボロボロ泣き続ける私を尻目に、店の商品を全て買い、私が落とした包も拾い上げ、私の手を引きながら店を出る時にもう一度「申し訳なかった!」と謝ると店を後にした。
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師範と私の姿を見た千寿郎さんはとても驚いていた。それはそうだろう。師範が沢山の甘味が入った包みを片手に、未だかつて見た事ないほどボロボロ泣く私の手を引いているのだから。
「千寿郎!しばらく部屋に篭る!」
「‥わかりました。御用があったら呼んでください」
「うむ!」
私はそのまま師範の部屋に連れて行かれた。
「そんなに目を擦ったら腫れてしまう」
街中で騒ぎを起こしたにも関わらず私師範は優しかった。
「柏木が、俺のためにそんなに泣く必要はない。あんな言葉、俺には何でもない事だ」
その言葉に、バッと師範の顔を見る。