第5章 隠せない隠さない
その会話に思わず振り返りそうになるのをなんとか我慢した。
「そうらしいな。はぁ。良いよなぁ、名家の坊ちゃんは。俺らは必死こいてもまだ辛だって言うのによ」
「なぁ!どうせ名前だけで大した鍛錬もしてないだろ」
あまりにもひどい言いように、怒りのあまり身体が熱くなるを通り越して冷たくなる。
「次のお方、どうぞ」
いつの間に自分の番になったのか定員さんに促され商品を選ぶ。でも、後ろの2人の会話が気になりすぎて選ぶことに全然集中できない。
「じゃあ‥これとこれを」
適当なパックを二つ選び、代金を置く。
「お包みしますので少々お待ちください」
待ってる間、嫌でも会話が耳に入ってきてしまう。
「知ってるか?弟子が2人いるらしいんだが、2人とも女なんだってよ!ふざけてるよなぁ!俺らは毎日必死で任務に行ってるって言うのによ!」
今日は隊服を着ていないし2人には背を向けている。その弟子のうちの1人が目の前にいるとは夢にも思っていないだろう。
「お待たせ致しました。またお越しください」
一言言ってやりたい気持ちでいっぱいだった。でもここで揉めごとを起こせばお店に迷惑をかけてしまう。怒りをグッと堪えて店を後にしようとした。
「そんな腑抜けた柱なんてすぐ死ぬだろ」
プツリと頭の中で音が鳴った。
「っ痛えな!なんだこの女!離せっ!」
気づくと私はその男の胸ぐらを掴んでいた。
「‥取り消しなさいよ」
「はぁ!?何言ってんだ!?早く離せよ!!」
「取り消せって言ってんのよ!あんたに師範の何がわかるって言うの!?」
私のその言葉に、2人はようやく私が師範の弟子のうちの1人と気付いたようだ。
「お前‥もしかして‥」
「あんた達1度でも師範の稽古受けたことあるの!?任務を一緒にした事あるの!?何も知らないくせに勝手なこと言うなっ!
怒りで涙が溢れてる。
「師範は誰よりも努力してる!誰よりも下の隊士を大事にしてる!名家とかそんなの関係ない!自分で努力して炎柱になったんだ!」
「っうるせぇ!離せ!」
自分よりも小柄な、しかも女に胸ぐらを掴まれ身動きが取れずさぞ悔しいのだろう。男は顔を真っ赤にして怒り、連れの男も私の腕を掴み必死で引き剥がそうとしていた。だが、引き剥がせるわけもない。だってこの2人は私よりはるかに弱い。師範と任務に出る機会がない程に。
