第1章 終わりと始まり
いつだったか、女の二人暮らしは物騒だからと近所に住むおじいちゃんがくれた小刀。こんなの怖くて使えないと玄関の籠に仕舞い込んでいたその存在を思い出しそれを取り出す。両手でぎゅっと握り、大切な姉の身体を貪り食う化け物に刃を向け飛び込んだ。
グサっ。
刺さった感触は確かにあったのに、化け物は殆ど反応を見せずハナエさんの身体を食い続ける。
「ハナエさんを‥私の姉さんを返せー!」
渾身の力を込めて今一度化け物を刺そうと腕を振り上げた。
「邪魔するんじゃねぇよ」
その言葉とともに弾き飛ばされ、私の身体は壁にぶち当たる。
‥っかはっ。
強い衝撃に目の前がチカチカして今にも意識が飛んでいきそうだ。小刀一本で化け物に勝てるはずがないことなんてわかってた。ハナエさんがもう手遅れだってことも嫌でもわかってた。でも、それでもハナエさんを取り戻したい。ただそれだけだった。壁を伝いながらフラフラと立ち上がる。
「それ以上ハナエさんに触るな!醜い化け物め!!」
ボロボロと涙が頬を伝っていく。
「あー!うるせぇ!うるせぇ!折角のうまい食事がお前のせいで台無しだ!そんなに死にたいならお前も殺してやるよ!」
化け物はイライラしながら振り向き私の方に向かってきた。
その時だった。
「お前の相手は俺だ!」
「っち!鬼狩りか!いつの間に来やがったのか」
急に刀を持った黒い服を着た男性が現れ、化け物から自分を庇うように立ちはだかった。化け物はこちらに向かってきていた足を止め、私達がいる壁の反対側へと跳躍した。
「今すぐぶっ殺してやりてぇ所だが今日のところは勘弁してやる。まだまだ力を蓄え足りねぇからな。勘違するなよ。お前ごときから逃げるわけじゃねぇからな。あばよ」
そう言うと化け物は壁をぶち壊し去って行った。
「っクソ!待て!」
黒い服を着た男性は化け物を追って出て行った。私は重たい足をなんとか動かしハナエさんの遺体に近づいた。その姿は信じ難いもので、幸せがいっぱい詰まっていた温かな腹部がほとんど無かった。あの化け物が言っていた通り産まれてくるはずだった赤ちゃんは、本当にそこにいたのかどうかも確認できないほど綺麗さっぱり食われたのだろう。
「‥ハナエさん‥なんで?どうしてなの‥」
膝から崩れ落ちた私はハナエさんの遺体に縋りたいて泣く事しかできなかった。
