第1章 終わりと始まり
それから私とハナエさんの奇妙な2人暮らしが始まった。ハナエさんは一緒に暮らすことを決めた翌日には、本当にそれ1人分の荷物なの?と聞きたくなるくらいの量の風呂敷に包まれた荷物を何個も持ち私が住んでいる家に引っ越してきたのだった。もちろん妊婦の自覚が足らないと小言をお見舞いした。全くの他人だった私達はあっという間に打ち解け、私はハナエさんのことを少し歳の離れた姉のように思っていた。
怖いくらい綺麗な満月の夜だった。
いよいよ産気づいたハナエさんを家に残し産婆を呼びに少し離れた村へ走った。
「おばさん!ハナエさんが!急いで来てください!」
「そうかい。準備してすぐに向かうから、あんたは先に戻ってな」
「わかりました!」
滞在時間は30秒にも満たなかっただろう。産婆の言葉に返事を返すと、すぐに来た道を走って戻った。一人で痛みに耐えているであろうハナエさんの元に1秒でも早く戻りたかった。
走り続け足が重かったが、慣れ親しんだ家が見え不思議と疲れは飛んでいった。
もう少しで赤ちゃんに会える!
期待で胸がいっぱいの私は、出る時は危ないからと確かに閉めた戸が開いている事に違和感も感じず家の中へ飛び込んだ。
「ハナエさん!産婆さんもうすぐ‥」
来るよ
そう続けようとした言葉は最後まで出てこなかった。
ビチャ。グチャ。グチャ。
目の前には見たこともない化け物が。そしてその化け物が辺りを真っ赤な血で染め貪り食っているのは姉の様に慕っていたハナエさん。
先程までとは違う理由で心臓がドクドクと波打ち、一方で頭が真っ白になる。もともと全速力で走り続け、過呼吸気味だったのが更に悪化していく。
「あぁん?なんだお前。俺の食事の邪魔するんじゃねぇよ」
夢中でハナエに貪りついていた化け物も、激しい息遣いに気付き口の周りにべっとり着いた血を舐めとりながらこちらに振り向いた。
「‥ハナエさんは‥赤ちゃんは‥?」
「あぁん?そんなもんとっくに食ったに決まってるだろ。腹から出したての赤ん坊とそれを孕んでた女は最高に美味いんだよ」
こいつは一体何を言っているのか。
悪魔のようなその言葉に怒りとも悲しみとも言えない耐え難い感情が溢れ、ただ立ち尽くすことしかできない。
「お前は不味そうだからいらねぇ。邪魔だから向こうに行ったろ」
興味なさ気にその化け物は言った。
