第5章 隠せない隠さない
師範は優しい手つきで私の髪をひと撫でする。
「明日は甘露寺も一緒に鍛錬だ。いつもより厳しくいくぞ。だからそれが終わったら早く寝なさい」
「‥はい」
「うむ。では俺はもう行く。おやすみ」
「‥はい‥おやすみなさい」
最後にもう一度フワリと撫でると、師範は台所を出て行った。気配が完全に遠ざかり、私はその場にヘナヘナと座り込む。
「‥無理‥」
あんな風にされたら、あんなふうに言われたら、期待してしまう。もしかして師範も同じ気持ちなのかって。
その後何とか煮物を作り終え部屋までたどり着いたが、一睡もすることが出来ないまま朝を迎えた。
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「ナオちゃんなんだか顔が疲れているわ。ちゃんとお休みできてるの?」
蜜璃ちゃんに会って開口一番にそう言われてしまった。
「実は昨日色々あって‥お願い!後で話聞いて!蜜璃ちゃんにしか話せないの!」
もうひとりで悶々と悩むのは限界だった。それを聞いた蜜璃ちゃんはとても嬉しそうに「もちろんよ!私に任せてちょうだい!」と嬉しそうに言いながら、張り切った様子で道場に行ってしまった。
私は今日はまだおろしている髪を纏めるために、一度部屋に戻る。鏡を見ると、我ながら酷い顔だ。折角の蜜璃ちゃんと一緒の稽古だ。気合を入れるためいつもより強めに髪を巻き上げる。そうすると不思議と気持ちも引き締まった。
よし!これで大丈夫。
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「柏木!なんだその情けない姿は!気合を入れろ!」
大丈夫じゃなかった。任務明けに寝ずにいつもよりも厳しい鍛錬は無謀だった。私は情けなくもいつぞやのように床に転がっていた。
「こら!寝転ぶなら端っこに行きなさい!」
あなたのせいで眠れなかったんです!とは言えるはずもなく、ズリズリと床を必死に移動する。そんな私を見かねた蜜璃ちゃんが抱き上げ端っこまで運んでくれた。
「蜜璃ちゃん‥ありがとう」
「こら!甘露寺!柏木を甘やかすな!」
「すみませんすみません!あんまり可哀想だったからつい!」
「そんな余裕があるのであれば打ち込み追加だ!」
「ひぃ!すみません!勘弁して下さい!」
私を助けたばっかりに‥ごめんね‥蜜璃ちゃん。
厳しい打ち込み稽古は、千寿郎さんお手製のお菓子と私の煮物を持ってきてくれるまで続いた。