第1章 終わりと始まり
私はハナエさんの言葉の続きを待った。
「私ね、あの人以外の家族がいないの」
なんの言葉も出てこなかった。この人は私と一緒だ。唯一の家族を失って1人でその悲しみに耐えていたのだろう。
「酷いわよね。初めての妊娠で、不安でいっぱいなのに‥頼れる身内もいなくて‥一人でどうしろって言うのかしらね」
ハナエさんの顔は微笑んでいるものの酷く悲しそうだった。
「‥一人で、不安で‥赤ちゃん諦めようかとも思ったの」
手は小刻みに震えていた。
「でもどうしても諦めきれなくて‥どうしたら良いか必死に考えて、‥思い出したのがナオちゃんの事だったの」
「私‥ですか?」
なぜそこで私なのか。
「うんナオちゃん。お願い。この子を育てる手助けをして欲しいの」
思いもよらない言葉に私の目はまた見開かれていただろう。
「‥どうして‥私なんですか‥?」
「‥そうよね。普通そう思うわよね。でも‥ごめんなさい。ナオちゃんしか助けてくれそうな人が浮かばなかったの」
まだ子どもの私にできることなんてたかが知れてる。近くに妊婦さんがいた事だってほぼない。そんな私が助けになれるなんて到底思えなかった。
2人の間に再び沈黙が訪れ、部屋にはガタガタと風で戸が鳴る音だけが響いていた。
「‥っやっぱり無理なお願いよね!無理を言ってごめんなさい。こんなよく知りもしないおばさんの戯言なんて忘れて!急に押しかけて変なこと言ってごめんなさい」
そう矢継ぎ早に言うとハナエさんは戸の方に向かい、脱ぎ揃えてあった履き物に手をかけた。片方履き、残るは後もう片方。
「‥っ待ってください!」
まだ考えはまとまらない。それでも自分を頼って来てくれたこの人を放っておくことなんて出来ないと思う気持ちだけは確かだ。ハナエさんは不安げに私の顔を見ていた。
「‥私が出来ることなんて炊事洗濯くらいしかありません‥。それでも良ければ‥」
自信のない言葉は尻すぼみでハナエさんに聞こえたかどうかも微妙なところだ。それでもハナエさんはきちんと私の言葉を拾い上げてくれたのだろう。
「本当に⁉︎良いの⁉︎後悔しない⁉︎」
「はい。もう決めたことです。‥ふふっ。ハナエさんの目、まんまるです。私のこと笑えませんね」
そう笑った私に釣られるように、ハナエさんも笑顔になった。