第5章 隠せない隠さない
数日前、蜜璃ちゃんが煉獄家に来ると連絡があった。久々に可愛い妹弟子に会えると言うことで、任務終わりのまだ暗い中、私は千寿郎さんに許可を得て台所をお借りしていた。
以前急に食べたくなって作ったのを、その場に居合わせた蜜璃ちゃんにお裾分けし、美味しい美味しいと言ってお皿に盛るまでもなく食べ終えてしまったさつま芋と小豆の煮物。また食べたいと言っていたのに作ってあげる機会もなく、そのままになってしまっていた。
だから今回、任務前にさつま芋と小豆をたくさん調達し、必死で任務を早く終わらせ、夜な夜な煮ている。
蜜璃ちゃん喜んでくれるかな。今回は師範や千寿郎さんに食べてもらえる量も十分あるし。美味しくできると良いな。
みんなで近況を報告しながら甘味や私が作った煮物を食べる姿を想像すると自然と鼻唄が溢れてきてしまう。
ふんふんふーん。
「美味しくなぁれ」
煮物の良い香りとコトコト煮える音。
ふんふんふーん。
完全に自分の世界に入り込んでいた。
ふと部屋に自分以外の気配があることに気づいた。自分の鼻唄で全く気づかなかったがなんなら笑いを堪えきれていないであろう息遣いも聞こえる。
バッ!と振り返った先には手の甲で口を塞ぎ、肩を震わせる師範の姿。
カーッと顔に熱が集まる。
「‥し‥師範‥いつから‥そこに‥?」
羞恥で声が震える。
「うむ!君が"美味しくなあれ"と言っている辺りだな!」
師範はひと通り笑い終えたのか、何事もなかったかのように答えてくる。
「‥っ!どうして声をかけてくれなかったんですか!」
顔から火が出そうだった。
「わはは!すまない!君があまりにも可愛かったものでつい!」
その言葉に私の顔はさらに熱くなる。
「‥そんな言葉で私は誤魔化されません!」
「誤魔化してなどいない!本心を言ったまでだ!」
ときめかないときめかないときめかない。
呪文のように心の中で唱え、心を落ち着かせる。
「ところで柏木!何やら美味しそうな匂いがするのだが、何を作っているんだ?」
「‥これですか?さつま芋と小豆を甘く煮たものです。前に蜜璃ちゃんにあげた時に凄く喜んでもらえたので、また食べさせてあげたいと思って」
なんの気無しに私が言ったその言葉に師範はムッとした表情を見せる。
え?師範‥怒ってる?私何か悪いこと言っちゃったかな‥?