第5章 隠せない隠さない
師範の弟子になり一年半年ほどが経過した。カナエ様が亡くなった翌日から私は煉獄家に住まわせてもらえるよう自ら願い出た。師範との稽古時間をなるべくたくさん作り、早く強くなりたかったからだ。もちろん恋心を抱いている人と一つ屋根の下なんて、もう心臓飛び出るんじゃないかって位ドキドキさせられることもあった。しかしそれに耐え、厳しい稽古を積んだ結果私の階級は"丙"まで上がった。そして師範は"甲"まで階級を上げた。
その間師範は「え?この人わざと言ってるのかな」「わかっててやってるのかな?」って位私を誘惑‥もとい、褒め伸ばしてくれた。もう本当に私じゃなかったら絶対に勘違いしてポロッと気持ちを伝えたくなる位。ある意味それが修行以上に辛かった。私が強くなれば強くなるほど、師範への気持ちも一緒に強くなって行くようだった。
そしてもう一つ、大きく変わったことがある。
「甘露寺!休憩にはまだ早い!立つんだ!」
「すみませんすみません!でももうお腹が空いて力が出ないんですー!」
「さっき昼を食べたばかりだろう!」
「でもでももうお腹がペコペコなんですー!」
「蜜璃ちゃん!今日のおやつは蜜璃ちゃんの大好きな桜餅だよ!だから頑張ろう!」
「え!?それは本当!?うーん!俄然やる気が出てきたわー!」
かわいい妹弟子ができたこと。
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「はぁ。今日の稽古もとっても厳しかったわ‥私ナオちゃんがいなかったらここまで頑張れなかったと思う。いつも助けてくれてありがとう」
なんて可愛い妹弟子なんだろう。実の所初めて師範が蜜璃ちゃんを連れてきた時私は衝撃を受けた。愛らしい顔。鈴のような声。たわわな胸。自分とは比べものにならないくらい素敵な女の子が師範の隣に立っている。いつも私がいる場所に。そう、私は醜い嫉妬心に駆られてしまった。もちろんそんな感情はおくびにも出さない。それでもそんな感情を抱いてしまうこと自体情けなくて、何度も自己嫌悪したものだ。
でもある日
「師範って本当にナオちゃんのことが大切なのね!私もいつかそんな風に殿方に思われたいわ!」
と、とんでもないことを言ってきた。私はそれに対して
「違う違う!師範はそういうのじゃなくて!私が一方的に好意を抱いてるだけで!ただの弟子としか思われてなくて!」
なんて言って、自ら墓穴を掘った。