第4章 赤く赤く
「父上が良いと言ったんだ。気にすることはない。父上はあれで柏木の事を気にしているんだ」
「え?炎柱様がですか?」
それはなんとも予想外だ。今までそんなそぶりは見たことがないし、なんならあの挨拶以来話したことだってない。あるとしたら私が一方的に挨拶したくらいだ。
「うむ!柏木が任務で4日ほど稽古に来なかった時があるだろう?あの時父上に"あの娘はどうした?"と聞かれ俺は驚いた!」
初耳だ。私のことを気にしてくれているだなんて夢にも思わなかった。
「気にしていただけるのは嬉しいですが‥私にはそうして頂ける理由が見当もつきません」
むぅ。と師範も考え込んでいる。
「これはあくまで俺の予想だが、母上から父上は娘を欲しがっていたと聞いた事がある。柏木を自分の娘のように思っているのかもしれないな!」
「‥そんなまさか‥ありえません」
「なぜそう言い切れる?柏木は以前、その人が抱える悲しみはその人にしかわからないと言っただろう。それと同じで父上が柏木をどう思っているかは父上にしかわからない」
そうだろう?と言う師範に私は何も言い返せない。それに、本当にそう思ってもらえているのであれば、こんなに嬉しいことはない。
「だったら‥とても嬉しいです」
あまり深酒はして欲しくないが、今度任務で街に行った時は炎柱様にお酒のお土産でも買ってこよう。
「さて、気持ちは落ち着いただろうか?」
師範と話している間に、いつの間にか私の気持ちは落ち着きを取り戻していた。
「はい。‥きっとまたカナエ様を思い出して落ち込むことはあると思います。‥でも、もうあんな風に後ろ向きに考えるのは辞めます」
あんな行為にはなんの意味もない。現実からただただ目を背けているだけだとわかった。
「それは良い心がけだ!」
「私に出来ること‥すべき事は、強くなることだけです」
もう大切な誰かを失うのは嫌だ。
悲しむ姿を見るのは嫌だ。
師範を失うのは嫌だ。
千寿郎さんが悲しむ姿を見るのは嫌だ。
「守れるだけの強さを‥手に入れます」
「うむ!柏木なら出来る!俺はその言葉を信じる!」
消えかけていた私の炎が、以前よりも大きく燃え上がる。
「ありがとうございます」
私が、あなたを必ず守ります。
そう心の中で強く誓った。