第4章 赤く赤く
縁側に腰掛け月をぼんやりと見上げる。
ギシッ。
と床が鳴る音がした方を見ると、そこには師範姿。
「眠れないのか?」
月に夢中で師範が近づいてきていることに全く気づかなかった。
「一度寝たのですが‥目が覚めてしまって‥。師範はどうしたのですか?」
「俺も同じようなものだ!折角だ、少し話でもしよう」
そう言うと師範も私の隣に腰を下ろした。師範と並んで月を見ているなんて不思議だ。チラリと横を盗み見ると、普段とは違う雰囲気に自分の鼓動が速くなるのを感じる。
「いつもは纏められていて気づかなかったが、柏木の髪はそんなにも長かったんだな」
「あ、はい。以前、鬼に髪を掴まれたことがありまして‥それ以来なるべく邪魔にならないよう纏めるようになりました」
頭が疲れるので本当はあまりしたくないのだが、きつく夜会巻をしていれば滅多なことでは崩れない。だから私は日中はいつも同じ髪型で、基本的に湯浴みをするまでは髪を下ろすことはない。
「女性は髪型ひとつで雰囲気がガラリと変わるものだな!普段の姿も凛々しくて素敵だが、下ろしている姿はそれもまた良い!」
‥相変わらず恥ずかしげもなくそんな事を言うものだから、私の心は振り回されっぱなしだ。でもきっと、下心がないからこそなんの躊躇もなく言えるのだろう。
「‥師範。前から思っていたのですが、そういう発言は相手に誤解を招きます」
師範は物凄く人間たらしだ。それも無意識だからタチが悪い。清廉潔白を絵に描いたようなお人柄で、せっかちな面から誤解を招いてしまう時もあるが、今まで師範を悪くいう人に会ったことがない。
「私はもう慣れたから平気ですが‥気をつけないと、中には勘違いしてしまう人もいますよ」
一緒に任務に就いたことがないのでその場面を見たことがあるわけではないが、師範が誰かに好意を寄せられる姿なんて容易に想像できた。ただ想像しただけなのに、私の胸はツキリと傷む。
「よもや!俺は思った事を口にしたまで!誤解もなにもない!」
その言葉をどう捉えて良いか分からず、私は固まってしまった。師範には私が魅力的に見えるのだろうか?そうであれば嬉しい。いやでもそんなはずがない。
「‥っ!あ、そう言えばお母様の服、本当にお借りしてよろしかったのでしょうか‥」
話題を変えようと思い出したのが、今も着ているこの服の事。
