第4章 赤く赤く
この不毛なやりとり‥なんだか既視感がある。
「うむ!柏木は思いの外頑固だな!」
「頑固ではありません!公私混同はしない主義なのです!」
どちらも譲らず戦いは膠着状態である。
「うむ!わかった!」
よし、私の勝ちだ。と思いきや
「柏木が今日泊まると聞いて千寿郎が嬉しそうにお客用の布団を出していたのだが。柏木のために、柏木の好物をたくさん作ろうと張り切っていたが。そうか、柏木は帰るのだな。ならば仕方ない、千寿郎に伝えて」
そう言って出て行こうとする師範の腕を今度は私ががしりと掴む。
「‥泊まらせていただきます」
「うむ!」
私が千寿郎さんに弱いことを知っていて千寿郎さんを出してくるとは‥ずるい。不満を隠すことなく師範を見ていると
「作戦勝ちだな」
そう言って悪戯な笑顔を浮かべた。
あ、その顔はまずい。
師範の笑顔に当てられ固まる私を尻目に「これを着るように」と上質な浴衣を1着置いて今度こそ行ってしまった。
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「それではナオさん、おやすみなさい」
あれから、あれよあれよという間に湯をいただき、夕食を共に食べ、そして今はお借りした部屋で眠りにつこうとしている。
暖かい布団。自分以外の誰かの気配がする家。こんなに温かい気持ちは久しぶりだ。師範も千寿郎さんも私を気遣ってか煉獄家の昔話をたくさん聞かせてくれた。好きな人の幼い頃の話を聞けることはとても喜ばしいことで、師範の新たな一面を知ることができた。
暖かい布団と、温かい気持ちに包まれ気づくと私は眠りに落ちていた。
ふと目が覚めると、あたりはまだ真っ暗な夜だった。
まだ夜中だろうか?
1度目が覚めてしまうと中々寝付くことができず、そうすると自然と色々考えてしまう。
カナエ様‥。結局カナエ様の想い人も聞けなかった。もっとたくさん、他にもお話がしたかったのに。しのぶさんは大丈夫だろうか。もう少し落ち着いたら会いに行こう。
そんな事をぐるぐる考えているといよいよ眠れそうにない。夜風にでも当たって気分を変えようと、私は静かに布団を出ていつもの中庭に行こうとこっそり部屋を出る。
その縁側から綺麗な三日月が見えた。夜ここで過ごすのは初めてだったので、この場所から三日月が見られるとは知らなかった。