第4章 赤く赤く
畳6枚分ほどの部屋の真ん中に、師範と私は膝を突き合わせて座る。さっきまでの重苦しい空気はもう感じない。
「よし!では話の続きだ!」
あれ以上何を話すことがあるのか。正直言って私にもう話すことはない。ただ、この家を早く出たい一心だ。
「柏木、まず君に聞く。弟子を辞めたいのは本心か?」
「‥本心です」
私の目に映るのは、膝の上で握っている自分の白くなった手だ。
「そうか。では俺の目を見てもう一度言いなさい」
その言葉に、顔を上げなくてはと思うのに身体がいうことを聞いてくれない。
「早くしなさい」
重い首をあげ師範を見る。怒っては‥いない。でもあの意思の強い瞳がこちらをジッと見据えている。
「‥っ私は‥‥」
それ以上、言葉が出てきてくれない。言葉は出てきてくれないのに、ようやく止まったはずの涙がまたジワリと溢れてくる。師範は私の両肩をグッと、けれど先程腕を掴まれた時とは違い優しく掴む。
「柏木、よく聞くんだ。君の母上の命を奪ったのは病だ。父上の命を奪ったのは不運な事故だ。姉の命と、花柱の命を奪ったのは鬼だ。柏木じゃない」
師範のその言葉に、私の涙は再び決壊した。
「‥っでも‥でも!」
「でも、じゃない。事実だけを見るんだ。柏木が自分のせいで、と思っているのはただの妄想だ。柏木自信が作り出した偽りだ。真実はそうではないだろう?」
涙を拭うことも忘れ、ボロボロと泣きながら師範の言葉に耳を傾ける。凍っていた心が、少しずつ溶かされて行くようだ。
「柏木はここに居ていいんだ。いや、俺は柏木にいて欲しい」
「‥師範は‥いなくなりませんか?」
「むう。残念だがそれは約束できない。俺はいずれ父の後を継いで炎柱になる。責務のために命を落とすこともあるだろう」
いや、ここは嘘でも"いなくならない"という流れではないか?てもその嘘偽りを言わない所が師範らしいと思う。
「だがそう易々と死ぬ気もない!今より更に強くなり、どんな鬼の頸でも斬れるような強い男になる!そう約束しよう!」
それではダメだろうか?師範は首を傾げ、私の瞳を覗き込む。
あぁ。この人の、こういうところが、どうしようもなく、好き。
「‥お側に‥いたいです。煉獄さんの隣に‥ずっといさせてください‥」