第4章 赤く赤く
花柱‥カナエ様‥?
「それは誠ですか!?」
「嘘をつく必要がどこにある」
2人の会話が耳には入ってくるが、その内容が理解できない。いや、脳が理解を拒否しているのだろうか。
段々と話し声も聞こえなくなり耳鳴りが大きくなる。目の前が白くなり景色が見えなくなって行く。息をたくさん吸っているのにどんどん苦しくなる。
手からカランと音を立て木刀が地面へと落ちる。
お母さん。お父さん。ハナエさん。カナエ様。
どうしてみんないなくなってしまうの。
「柏木!柏木!」
微かに聞こえる師範の声。
師範も‥いなくなってしまうの?
息が苦しい。胸が苦しい。怖い。
ボロボロと涙が止まらない。
もうだめ。
頬を何か温かいものに包まれている感じがした。
「柏木!」
私を呼ぶ声がする。
少しだけ戻った視界に映ったのは、真っ直ぐとこちらを見る赤みがかった目。その目と目が合うと頬を包んでいた手が離され、今度は抱きしめられるように背中に回される。
「俺の声をよく聞くんだ。ゆっくり息を吐け。吸うばかりじゃなく吐く事に集中」
優しく背中を撫でられ息が、音が、視界が戻ってくる。すがるように腕を師範の背中に回す。
「いいぞ。その調子。そのまま続けるんだ」
師範の鼓動を感じる。その力強い音をもっと感じたくて、師範の体に回した腕をより強めその身体に縋りついた。
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過呼吸だったのだろう。師範は私が落ち着きを取り戻すまで、背中を撫で続けてくれた。
「落ち着いたか?」
「‥はい」
でも涙はまだ止まらない。背中に回していた腕を優しく剥がされ、師範は私の顔を確かめるように見る。
「謝るな。柏木が無事ならそれで良い」
ボロボロ流れる私の涙を、持っていた手ぬぐいでひとつひとつ拭ってくれる。
「お前は、花柱と親しいのか?」
そこには炎柱様のお姿もあり、まだいらしたのかと働かない頭の片隅で思った。
「‥明日‥会う約束‥なんです」
その約束が守られることはない。
炎柱様は私の様子を確認すると、はーっと一つため息をつかれた。呆れられたのだろうか。
「杏寿郎。今日はその娘を家に帰すな」
「はい。元よりそのつもりです」