第4章 赤く赤く
しばらくするとしのぶさんが紅茶とクッキーを持ってやってきた。
「もう姉さんったら。急に声をかけるから薬の調合に失敗しちゃったじゃない」
「あら。ごめんなさいねぇ。でもねしのぶ、それどころじゃないのよ」
しのぶさんは困ったように笑いながら心なしかワクワクしているカナエ様と、そして私の前に紅茶とクッキーを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ。まぁ姉も楽しそうなので、ゆっくりして行ってください」
そう言うとしのぶさんは部屋を出て行った。
「さぁ、お茶も来たことだし柏木さんのお話を聞かせてくれないかしら?」
「はい。‥カナエ様は、誰か‥好きな殿方がいらっしゃいますか?もしくは殿方を好きになったことがありますか?」
「あら、やっぱりそういう話?私、お友達とそういう話してみたかったのよぉ」
そう言ってはしゃいでいるカナエ様はいつもの落ち着いた様子と違って、年相応の女の子に見えた。
「参考にならなくて申し訳ないんだけど、私もあるとは言えないのよねぇ」
その含みのある言い方が気になる。
「でもその言い方だと、ないとも言えないってことですか?」
「そうねぇ。‥"幸せになって欲しい"、"会えれば嬉しい"って思う相手はいるわ」
「‥それは"恋"とは違うんですか?」
カナエ様は私の質問攻めにも嫌な顔ひとつせず、そのお相手の顔を思い浮かべているのか考えながら答えてくれているようだ。
「私にもよく分からないの。なにせ任務や蝶屋敷の仕事で忙しくてね。‥ナオさんは、そういうお相手がいるのよね?」
その聞き方はもう確信を得ているような言い方で、私の気持ちなんてもうお見通しなんだろうなと恥ずかしくなる。
「‥はい。‥最初はただ尊敬していました。でも気づいた時には、尊敬とは違う甘いような、苦しいようなそんな感情が大きくなっていました」
直向きに前を見るその瞳に、強くあろうとするその手に、強さと優しさを感じるその声に、師範の全てに惹かれしまった。いつしかその隣に、ずっといられたらと思うようになっていた。誰にもその場所を取られたくないと思っていた。我ながら貪欲で滑稽だ。
「それは煉獄様の事であっているかしら?」
あ、息子さんの方ね!なんて言っているカナエ様に恐れながらも「もちろんです!」と慌てて答えてしまった。