第4章 赤く赤く
「これですか?実は鬼の攻撃が掠ってしまいまして‥」
情けないので出来ればあまり詳しくは聞かれたくない。
「そうか。蝶屋敷で手当てしてもらったのか?」
蝶屋敷で見てもらったにしてはお粗末な処置に見えたのだろう。師範は訝しげな顔で私の頬を見ている。
「蝶屋敷には行ってないです」
「なぜ行かない?怪我をしたのだからきちんと手当をしてもらうべきだろう」
「え?でもたいした怪我ではないですし‥」
顔にもかなり汗をかいた。このままだと不衛生だなと思いベリっと勢いよくテープを剥がす。
「ご覧の通り大した傷ではないので大丈夫です!多少跡になってもまぁ既に色んなところが傷だらけなのでもう気にしませんし」
もぐもぐと羊羹を咀嚼することに夢中になっていると、グイグイと稽古着の袖を引かれる。はて?と引かれた方を見ると千寿郎さんが何か言いたげに私の顔を見ていた。
「千寿郎さん?どうかしました?」
千寿郎さんは何も言わない。だが何も言わない代わりに目線で何かを私に訴えかけている。なんだろう?と思いつつその視線を追うと、その先にあったのは何時ぞやと同じ私を見つめる‥もとい、睨む師範の顔だった。
まずい。師範が怒っている。でも別に怒られるような事‥してない‥はず。
先ほど稽古でかいた汗とは違う汗がダラダラと流れてくる。
「柏木」
「‥はい」
持っていた羊羹を皿に戻す。皿から師範に視線を戻すと、あの日と同じでいつもの表情に戻っており内心ホッとする。
「以前も感じたことだが、君は君自身のことに対して疎すぎる。年頃の女性が夜道を独り歩きしようとするわ顔に負った怪我を放っておこうとするわ」
「‥はい‥すみません」
「謝って欲しいわけではない。ただ俺は君に君自身を大切にして欲しいと思っているんだ。わかるな?」
「‥はい」
師範に叱られ落ち込んだが、それと同時に自分を心配してくれていることが凄く嬉しいと思った。
「うむ!ではそれを食べ終えたらすぐ蝶屋敷に行ってきなさい!それでちゃんと治療を終えたら見せにきなさい!」
羊羹を食べ終えてからで良いなんて師範はやはりお優しい。
「わかりました‥食べたらすぐに行ってきます。ご心配をおかけして申し訳ありません」
頭を下げて師範に謝罪をすると、その下げた頭をポンポンと叩かれる。
「気をつけて行ってきなさい」
