第13章 暖かく和やかに
「もしかしたら女の子であればナオさんの要素が多くなるのかもしれませんね」
「む!確かにその可能性は高いな…」
千寿郎さんのその言葉に杏寿郎さんは顎に手を当て目を瞑りながらその姿を想像している様子だ。
しばらくすると
「良い!俺に似たこの子も信じられない程可愛いが、ナオに似た女の子、それもまた良い!」
杏寿郎さんはグリンと私の方を向き、
「次は女の子だな」
と満面の笑みで言った。あんなに苦しむ私を目の当たりにして、もう次の話をするとは。
杏寿郎さんの…鬼。
心の中で杏寿郎さんにそう言ってしまった私の気持ちを、どうか理解してほしい。
「杏寿郎、頑張って出産したばかりのナオさんに向かってなんてことを言うんです…と、言いたいところですが、実のところ私も次は女の子を期待してしまう気持ちが否めません」
瑠火さんは、まるで私の心の中を見透かしているかのように申し訳なさそうな顔をしながら、スッと明後日の方向を見るとそう言った。
「この子の前で…そんな事を言うもんじゃない」
槇寿郎様はそう言いながら、赤ちゃんの眉をとても愛おしそうにそっと撫でる。
数年後、女の子を出産した私が、私ではなく瑠火さんによく似た女の子を前に、全く同じ台詞をはく事になるのはまた別の話。
「ところでお前達、もう名前は決めているのか?」
槇寿郎さんのその言葉に、杏寿郎さんと私の視線がパッと合う。私がコクリとゆっくり頷くと、
「名前はもうナオと2人で決めました」
杏寿郎さんはそう言うと、赤ちゃんの額をその大きな手でゆっくりと撫でる。
「奏寿郎」
杏寿郎さんのその声に反応したかのように、赤ちゃんの口がもにゅもにゅと動く。
「この子の名は奏寿郎だ」
「奏寿郎…良い名だ」
「ええ」
千寿郎さんはゆっくりと優しく奏寿郎の手を握ると
「産まれてきてくれてありがとう。奏寿郎」
ひどく優しい声でそう言った。
-----------------------------
出産から5日後。私は今日、奏寿郎を連れ、煉獄家へとようやく帰る。お館様の計らいで、杏寿郎さんは午前休を取り、私と奏寿郎の迎えにきてくれたのだ。