第13章 暖かく和やかに
「妻と奏寿郎が大変世話になりました」
杏寿郎さんは最後に挨拶に来てくれた先生と鰯谷さんに向け、深々とお辞儀をしながらお礼を述べる。
「いいえ。また来てくれる日を、心から楽しみにしているよ」
「はい!」
「わからないことがあったら気軽に電話してね」
「はい。本当にあがとうございました」
おくるみに包まれスヤスヤと眠る奏寿郎を腕に抱き、杏寿郎さんと私はお世話になった病院を後にした。
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「はぁ…やっと帰ってこれました。やっぱりみんながいるこの家が1番落ち着きます」
車に乗っている間も、泣くことなくお利口でいてくれた奏寿郎を抱き抱え、私は久しぶりの(と言ってもたったの5日だが)煉獄家の門をじっと眺める。
「そうだな。だがナオと奏寿郎と共に見るこの家は、いつも以上に良く見える。さぁ、父上と母上がお待ちかねだ。行こう」
「はい…あ、すみません!車に携帯を忘れてきてしまったみたいです!取りに行ってくるので先に中で待っていてください」
「いや。ここで奏寿郎と待っている。気をつけて行ってきなさい」
「すみません!奏寿郎をお願いします」
「任せろ!」
抱いていた奏寿郎を杏寿郎さんへと丁寧に渡し、踵を返して駐車場へと向かった。
2人をあまり待たせてはいけないと急足で来た道を戻り、車のドアを開けると、やはり先程まで自分が座っていた場所に私のスマートフォンが置きっぱなしになっていた。急いで手に取りポケットに入れ、再び煉獄家の門へと向かう。
「杏寿郎さん、奏寿郎、お待た…」
急いでたどり着いた先で目に入ってきたのは、門の少し手前で、腕に抱いた奏寿郎を愛おしそうに眉を下げなから見つめる杏寿郎さんの姿。その姿があまりにも尊くて、私の言葉は途中で途切れてしまう。
"頑張って生きて行こう…寂しくとも"
かつて杏寿郎さんのその言葉を聞いた日から、ずっとこんな日が来てくれるのを夢見ていた。生まれて初めて、誰かを幸せにしてあげたいと思った。長年の時を経て、ようやくそれが叶った。
私はゆっくりと2人に歩み寄る。