第13章 暖かく和やかに
「もうすぐ面会時間が終わるんだけど…仮眠ベットで良ければ泊まってっても良いし、帰るんであれば9時には病院を出てちょうだいね」
「承知した」
「もう少ししたら軽食を持って来るからね」
鰯谷さんはそう言って部屋を出て行った。杏寿郎さんは扉が閉まったのを確認するとくるりと私の方を振り向き、こちらに歩み寄って来ると、私が横たわっているすぐ隣に腰掛ける。
「泊まって行きたいところだが、俺がいない方がナオもゆっくり寝られるだろう。明日、部活を終えたら父上と母上と千寿郎と一緒に来ても良いだろうか?」
「もちろんです。早く産まれてきて驚きはしましたが、金曜日に産まれてきてくれた事はファインプレイでしたね。明日からはおそらく母子同室になるので、槇寿郎さん達にもゆっくりあの子と過ごしてもらえると思います。午前中のうちにオムツ替えと授乳を上手くできるように練習しておかないと」
「うむ。だが無理はしないように」
「はい」
杏寿郎さんぐっと私に顔を寄せると、
ちゅっ
と軽く1回口付けた。
「ナオのお陰で、俺はとても幸せだ。また明日、会いに来られるのを楽しみにしている」
眉を下げ、優しい瞳で杏寿郎さんはそう言った。
「私もとても幸せです。気をつけて帰って下さいね」
私はすぐそこにあった杏寿郎さんの左手を、同じく左手でぎゅっと握る。
「うむ。退院までは、またこの子に俺の代わりを勤めてもらおう」
そう言って、私が持ってきた虎のぬいぐるみを私の隣にそっと置き、
ちゅっ
と再び私に口付けると
「では、まだ明日。ゆっくり休むといい」
「はい。杏寿郎さん、おやすみなさい」
「おやすみ。ナオ」
そう言って、私のおでこをまるで前髪をかきあげるように撫で、病室を出て行った。
パタリ
と静かに扉が閉まり、部屋には私1人きりとなった。身体は重いし、お尻も骨盤も痛いし、お腹も空いた。それでも心は幸せでいっぱいだった。
明日からあの子とどんな風に過ごせるだろう。
そう考えるとわくわくしてしまい、産後の興奮も相まってか、疲れているはずなのに眠れない。
こんな事なら杏寿郎さんに居て貰えばよかったな。
そんな事を考えていると、
コンコン
と扉がノックされ、鰯谷さんがおにぎりとお茶を持って現れた。