第13章 暖かく和やかに
「…うん!頑張るよ。気をつけて…帰ってね?」
「はい」
「外まで送ろう」
千寿郎さんはドアに向かうと振り返り
「いいえ、大丈夫です。それでは」
と一礼して個室を出て行った。
杏寿郎さんは私に近寄ると、
「…連絡に気づけずすまなかった。携帯を自分の机に置いたまま打ち合わせに行ってしまい、小芭内が呼びに来るまでナオに陣痛が来ていたなど夢にも思っていなかった」
そう言いながら、私のお腹を優しく撫でた。
「いやいやまさか私も今日陣痛が来るなんて思っていなかったので…仕方ないですよ」
「むぅ。それにしても、君はせっかちな子だな。まだ予定日まで2週間もあると言うのに。そんなに父様と母様に会いたかったのか?」
愛おしそうに私のお腹を撫でる杏寿郎さんの姿を見ていると、早くお腹の子と会わせてあげたいと思った。
「ふふっ。誰かさんに似たんでしょうかね?」
「わはは!それは俺の事だろうか?」
「そんな事は言っていませんよー」
笑っていられたのはここまでだった。
いよいよ立っていられなくなり、おまけによくわからないながらも"いきみたい"と思うようになった。そんな私の様子を見かねた杏寿郎さんが先生と鰯谷さんを呼び、内診をしてもらうと
「え?もう子宮口ほぼ全開になってるね。よし、分娩台に移動しようか!いやぁ、初産なのに信じられない位進みが早い。流石煉獄の名を持って産まれる赤ちゃんは違うねぇ」
なんて言いながら先生が笑っており、
「…笑い事じゃありません」
小さく漏らした私の文句が耳に入った杏寿郎さんが
「…すまない」
と、本当に申し訳なさそうに呟いていた。
「赤ちゃんでましたー!」
その言葉の後、
うんぎゃーうんぎゃー
分娩室に響き渡る元気な赤ちゃんの産声。
全体力と気力を使い果たした私は、なんとか視線だけでもそちらに向けた。
「…っ…」
その姿を視界にとらえた途端、私の頬を涙がつーっと伝い落ちた。
鰯谷さんが綺麗にした赤ちゃんを私の元に連れてきてくれようとしたのを、
「…待ってください…っ!…最初は…杏寿郎さんに…」
と、私が制すると
「…っ!」
私の斜め後ろに立っていた、いつもの快活な様子から考えると嘘みたいに静かな杏寿郎さんが息をのんだのがわかった。