第13章 暖かく和やかに
「ナオさん?こんなところでどうしたんですか?」
私の姿を視界に捉えると、一瞬目を見開き、その後不思議そうに首を傾げそう尋ねられる。私は千寿郎さんが帰ってきてくれた安心感から込み上げてきそうな涙を堪えながら
「あの…実は陣痛が来て、今…タクシーを待っているところなんです」
努めて明るく聞こえるように言った。
「え?陣痛……ですか?」
千寿郎さんは驚きすぎて何を言われているのかパッと理解出来ていないのか、眉を下げ首を傾げている。
「はい。もう10分間隔を切り出したので…病院に行かないといけなくて…」
千寿郎さんは数回まばたきを繰り返した後
「…え!?陣痛って…産まれるんですか!?」
ようやく私の言っている事が理解できたのか、依然として座っている私の元に駆け寄ってきた。
「…そうみたいです」
「えー!?だって予定日はまだ2週間も先ですよね!?」
「…そうなんですけど」
千寿郎さんはしばらくは驚きでオロオロしている様子だったが、
「…っ兄上!兄上には連絡したんですか?」
と、冷静さを取り戻したのか私に目線を合わせるようにしゃがむと落ち着いた声で私にそう問うた。
「実はまだ連絡が取れてなくて…授業のあとに武道館の改装打ち合わせがあるって言ってたから、携帯を持っていないかマナーモードにしてて気づかないんだと思うの」
「では学校に電話を掛けてはいかがですか?」
そう。私も一度はその手を考えた。学校に電話を掛ければ杏寿郎さんに取り次いでもらえるかもしれないと。
「でも、ほら…個人的な事で他の先生たちの仕事を煩わせてしまうのは…あまり良くないと思って」
そう思った為、結局迷った末にその方法は自分の中で却下となったのだ。
「何を言ってるんですか!陣痛が来てるんですよ!?そんな事を言っている場合ではありません!」
「っごめんなさい!」
千寿郎さんの普段はあまり聞かない大声に、私の口からは自然と謝罪の言葉が出てきてしまう。
「ナオさんがそう仰るのであれば、ぼくが掛けます!」
「…え?…ちょっ…」
そう言っている間に千寿郎さんは、自身のスマートフォンを鞄から取り出し、画面を数秒いじった後それを耳へと当て
「…もしもし?お忙しいところ申し訳ありません。煉獄千寿郎です」
あっという間に学校へと電話を掛け出した。