第13章 暖かく和やかに
「大丈夫。大丈夫だよ」
自分にそう言い聞かせながら、お腹に手を当てる。
入院セットはもう鞄に詰めて用意してあるから今のうちに玄関に持って行こう。あ、動けるうちにシャワーも浴びて…あ!タクシー!あらかじめ登録しておいた陣痛タクシーの番号が冷蔵庫に貼ってあるはず。それも今のうちに持ってきておかないと。
自分1人しかいないのだからしっかりしないと、という気持ちと、ひとりぼっちで不安という気持ちが心の中で戦っていた。
私は杏寿郎さんの座卓に向かい、そこにちょこんと飾られている虎のぬいぐるみを手に持つ。
…杏寿郎さん。
ギュッとそれを抱きしめ、私はそれを胸に抱えたまま浴室へと向かった。
気づくと陣痛は10分間隔で来るようになっていた。もう一度杏寿郎さんに電話を掛けてみるもやはり出てはくれない。私は杏寿郎さんに連絡をする事は諦め、病院へと電話を掛けた。
プップップ プルルルルル
「はい。雲産婦人科です」
「あの…そちらに通院しております煉獄ナオです。陣痛が…10分間隔を切ったので連絡したのですが」
「あ、今助産師に代わりますのでお待ちください」
電話の向こうからは可愛らしい保留音が流れている。私は相変わらず杏寿郎さんのカーディガンを纏いながら玄関に座り込み、保留音が終わるのを待つ。程なくして保留音が終わり
「こんにちは。鰯谷です。煉獄さん?陣痛が10分切ったそうね。すぐに病院に来れる?」
電話に出たのは鰯谷さんだった。
「あ、今…家に誰もいなくて…陣痛タクシーを呼んでそちらに向かおうと思います」
「まぁ誰もいないの?とにかく落ち着いて、忘れ物があっても後で届けてもらえば大丈夫だから、入院セットと診察券、保険証だけは必ず持ってきてね。この電話を切ったらすぐにタクシーを呼ぶ事。良いかしら?」
「…っはい!」
「うん。良い返事ね。それじゃあ待ってるわね」
「はい。失礼します」
鰯谷さんとの電話を切ると、私はすぐに陣痛タクシーを呼んだ。
15分ほどでタクシーは来てくれるとのことだった。私は最初よりも大分強くなった痛みに耐えながら玄関に座り込み、規則的に来る陣痛に耐えていた。
その時、ガチャガチャと鍵の開く音が聞こえ顔上げると
ガラッ
と音を立てて玄関が開いた。
「っ千寿郎さん…!」