第13章 暖かく和やかに
杏寿郎さんは顔を歪めると
「俺がいつそんなことを言った!!!」
私に向かって声を荒げた。
「…っ!」
家中にビリビリと響くようなその怒鳴り声に、私の全身がビクリと震える。
初めて怒鳴られた驚きと、やり場のない悲しさが入り混じり私の目の奥からじわりと涙が迫り上がって来る。それでも、
絶対に泣いたりしない。だって私、何も悪いことしてないもん。
唇を噛み、こぼれ落ちそうになる涙を堪えた。
杏寿郎さんはハッと我に返ったように目を見開き、私へと手を伸ばす。けれども私は一歩後ろに下がり、それをスッと避け、杏寿郎さんの手が空を切った。
部屋は"しーん"と静寂に包まれる。
すると、廊下からパタパタと足音が近づいて来る気配を感じた。その足音の主は瑠火さんだったようで、杏寿郎さんの怒鳴り声を聞き、慌てて杏寿郎さんと私の部屋に駆けてきた様子だ。
「…2人とも、どうかしましたか?」
と珍しく声を弾ませながら言う声が扉の向こうから聞こえて来る。
「…なんでありません」
私は杏寿郎さんがそう言ったのを良いことに、
「なんでもないのであればもう家を出られた方が良いではないですか?もう出発の時間ですよ」
震えそうになる声を抑え、時計を指差しながらそう言った。杏寿郎さんはそんな私を眉を下げながら見つめている。
「部員が待っているんではないですか?早く行ってあげたほうが良いですよ。"煉獄先生''」
杏寿郎さんはチラリと時計を見て、慌てて鞄を拾い上げると
「…っ帰ったら話をしよう」
急足で部屋を出て行った。
玄関の扉が閉まる音が耳に入った途端
「…っう…」
私の我慢が限界を迎え、涙がボロボロと瞳からこぼれ落ちる。手のひらで顔を覆うものの、その程度では間に合わず、伝い落ちた涙が畳をポタポタと濡らしていく。
「こちらに来られますか?お茶でも飲みましょう」
瑠火さんに背中を支えられ居間まで来ると、そこには槇寿郎さんと千寿郎さんもいて私のことを心配気に見ていた。
「千寿郎、お茶をいれてもらえますか?」
「はい!」
「槇寿郎さん、少し席を外してもらってよろしいですか」
「わかった」
千寿郎さんは台所へ、槇寿郎さんは居間を出て方向的に考えるとおそらく自室へと向かって行った。
「…話を聞いても良いですか?」
そう私に問う瑠火さんに、コクリと頷いた。
