第4章 赤く赤く
その日は最近で1番ぐっすり眠れた。身体が疲れていたということもあるけど、それ以上に心が穏やかだったからだろう。眠りにつく時も明日がくるのが楽しみで仕方なかった。こんな気持ちになるのは子どもの頃以来だ。
布団を片付け身なりを整える。今の時間に烏がなにも言わないということは任務はないので隊服ではなく昨日頂いた道着に腕を通す。崩れると面倒だから髪の毛はきつめに結う。次は朝食だ。おそらく厳しい鍛錬が待っているだろうからできるだけたくさん食べないといけない。
今日も師範と千寿郎さんに会えるのが楽しみだ。
————————
弟子となり煉獄家に通わせてもらうようになってから2週間。ようやく炎柱様にご挨拶する機会が訪れた。けれども師範に挨拶をさせて欲しいとお願いすると「やめておいた方が良い」と師範にしては歯切れの悪い回答が返ってきた。
「柏木のことは俺から報告済みだ!好きにしろと言われている故、無理に挨拶をしなくても良い!わざわざ柏木に不快な思いをさせたくはない」
この2週間の間に煉獄家に複雑な事情がある事は理解していた。
「父上は母上が亡くなってから変わられた。昔は俺や千寿郎に稽古をつけてくれていたが、母上を失いその悲しみ故、気力はなくなりそれとは反対に酒が増えてしまってな。今では任務に行く前に酒を断つのがやっとの状態だ」
いつもの調子で話す師範だったがその姿は悲し気だ。師範から炎柱様の話を聞き、思い出したのは自分の父の事。母を亡くした後、私を気遣いいつもは明るく振る舞っていた父だが、ある晩夜中に目が覚めてしまった時母の仏壇の前で背中を丸めて啜り泣く姿を見てしまった。見てはいけないものを見てしまったと思い知らん顔してそのまま眠りについたが、翌日その姿が夢だったのでは?と思うほどいつもの父に戻っていた。
だからこそ炎柱様のお気持ちはなんとなく理解できた。いつも明朗快活な師範がそんな事情を抱えていたとは夢にも思わなかったが。
師範の話を聞き、私の"直接ご挨拶したい"という気持ちはより大きくなった。
「事情はなんとなくわかりました。‥それでもどうか少しでもご挨拶させてもらえないでしょうか?」
私の再度のお願いに、渋々ながらも炎柱様にご挨拶するのを許してくれた。
師範に連れられ炎柱様のお部屋まで行き、襖を開け共に部屋へと入る。
