第13章 暖かく和やかに
「杏寿郎。お前、玄関を壊す気か」
槇寿郎さんのそんな声が聞こえ、やはり音の主は杏寿郎さんで間違いないようだと安心しつつも、いつもと違う様子を不思議に思っていると。
ガバッ
「…っひゃ!」
背後から急に抱きすくめられ
ガタンッ
今度こそ手に持っていたお盆を落としてしまった。
「ナオ…っ!」
背後から聞こえた杏寿郎さんの声は酷く焦っていた。
「杏寿郎さん?おかえりなさい。…どうかされたんですか?」
落としてしまったお盆を拾いたかったが、杏寿郎さんの私を抱く力が強く、身動きが取れない。結局それは、瑠火さんの手によって拾い上げられてしまった。
「…不死川に聞いた。昨日、店で危うく転ぶところだったそうだな?」
「…っ!」
しまった。今日言えばそれで済むと思っていたけど、不死川様から先に聞いてしまう可能性を考えていなかった…!
そう思ってももうそんなのは後の祭り。
「ごめんなさい!隠すつもりはなくて…っ!昨日、話そうと思っていたんですけど…杏寿郎さん、疲れていたみたいだっただから…今日話せば良いと思っていて…っ」
「わかっている。確かに昨日、ナオの言う通り、俺は疲れていた。気を遣ってくれたんだろう?」
焦って言えば言うほど、なんだか言い訳がましくなってしまいどうしようかと思いはしたが、杏寿郎さんの声は私を心配している様子はするものの、私を責めている様子は感じなかった。
瑠火さんは、杏寿郎さんと私が話す邪魔にならない方が良いと思ったのか、スッと台所を出ると居間にいる槇寿郎さんの方へと向かって行った。
「…確かに…転びそうにはなりました。でも、不死川様が助けてくれて、転ばずに済んだんです!だから…この子はなんともありません」
杏寿郎さんを振り返り、見上げながらそう言うと
「うむ。それも不死川から聞いた。…ナオが無事で良かった」
杏寿郎さんは私の身体をクルリと回転させ、今度はお腹を気にしつつも正面から強く抱きすくめる。
「…気をつけてはいたんです。でもまさか後ろからぶつかられる事まで想定していなくて…」
「わかっている。先程も言ったが君を責めているわけではないんだ。だが今は、君と腹の子の無事を感じさせて欲しい」
そう言いながら私の肩に顔を埋める杏寿郎さんの背中に腕を回し、抱き返す事しかできなかった。