第13章 暖かく和やかに
「…あったかい。なんだか…とても幸せな気持ちになります」
カナヲちゃんはとても優しい表情を浮かべそう言った。すると杏寿郎さんがバッとカナヲちゃんに近づき、
「そうだろう!俺もこの膨らみに触れていると、堪らなく幸せな気分になってな!いつまでも触っていたくなるから不思議だ」
と興奮気味に言った。
先程の健診中もそうだったが、杏寿郎さんは人目を盗んでは(自宅においては人目をはばからず)私のお腹に触れてこようとする。それも毎日。おそらく妊娠している本人で有る私以上に触っていると言っても過言ではない。相変わらずと言えば相変わらずだが。
「…煉獄さん、とても幸せそうですね」
炭治郎くんのその噛み締めるような言い方が、私の胸にやけに響いた。
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私の妊婦生活は相変わらず、なんの問題もなく順調に進んでいた。
あの日が来るまでは。
「部員が待っているんではないですか?早く行ってあげた方が良いですよ。"煉獄先生"」
「…っ帰ったら話をしよう」
そう言って杏寿郎さんは、慌てて玄関を出て行った。私と杏寿郎さんは、未だかつてないほどの喧嘩(と言っても、わたしが一方的に腹を立てているだけだが)をしていた。事の発端は、少し前に遡る。
"申し訳ないのですが、お醤油を切らしてしまったので帰りに買ってきて頂けませんか?"
瑠火さんからそう連絡を受け、私は職場から一番近い薬局までまで足を伸ばしていた。夕方ということもあり、薬局は子どもや仕事帰りの人々で混み合っており、頼まれたものだけ買ってすぐに帰ろうと思っていた。目当てのお醤油を手に取り、レジに向かおうとしたその時
「こっちだよー!」
「おい待てよー!」
店内で追いかけっこをしていた小学生と思われる男児2人が私の横をすり抜けようとし
ドンッ
その追いかける側の男の子の腕が、私の腕と激しくぶつかった。咄嗟のことで避けることが出来なかった私の身体が、押された勢いのまま前のめりに倒れていく。
っ…どうしよう…このままじゃ…転んじゃう!
せめてお腹だけでも守らなくてはと、何とか体を捻る。
けれどもその時、
パシリ
と私の腕を誰かの手が掴んだ。
良かった…転ばなかった…。
心臓がバクバクと大きな音を立て、私の背中をヒヤリと冷や汗が流れる。