第13章 暖かく和やかに
「家族と…話し合って決めました。私個人の希望としては、10月20日をもって退職とさせて頂きたいと考えています」
「そうか。煉獄さんがいなくなってしまうのは寂しいけど、元気な赤ちゃん産んで子育て楽しんで。残り数ヶ月、よろしくね!あ、でもくれぐれも無理はしないでね」
「…ありがとうございます」
「出来れば…引き継ぎ資料、時間があるときに作っておいてね」
そう言ってヘラッと笑う室長に
「お任せください!」
と握り拳を作って答えると、満面の笑みを浮かべ"流石だね"と室長は笑ってくれた。
残りの数ヶ月、お世話になった皆さんのためにも一生懸命働こう。
そう心に決め、私は自分のデスクへと戻った。
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"次の検診の時、赤ちゃんの向きによっては性別がわかるかもしれないね"
そう言われ楽しみにしていた健診の日。
「おぉ!俺の記憶にある病院とは大分雰囲気が違うな」
「杏寿郎さんは千寿郎さんが産まれた時に来た事があるんですもんね。瑠火さんの話では、数年前に息子さんも来てくれたタイミングで立て替えたっていう話ですよ」
「成る程」
幸運にも部活の休みと健診の日が重なり、杏寿郎さんは初めて私と一緒に健診に来ることが出来たのだった。朝から落ち着きのなかった杏寿郎さんは、瑠火さんに
"病院にはたくさんの妊婦さんと赤ちゃんがいます。くれぐれも興奮して大声を出さないように"
と何度も何度も言われていた(その様子がおかしくて堪らず、2人に背を向けながら笑っていたのは私だけの秘密だ)。
駐車場に着き病院を見て開口一番に出た杏寿郎さんの言葉が先程の感想というわけだ。
「もうすぐ予約時間になりますし、行きましょうか」
そう言いながら私が助手席から降りようとすると、
「待ってくれ」
と言って、杏寿郎さんは急いで運転席から降りる。なんだろうと思いながらもそのまま待っていると、杏寿郎さんは助手席の方に周り外からガチャリと助手席を開け
「ほら」
と言って私に向かって手を差し伸べた。
「…ありがとうございます」
"なんて大袈裟な"と思いはしたものの、杏寿郎さんは私が妊娠する前からこう言ったことを平気でする節はあった。素直にその手を取り、注意を払いながら助手席から降り杏寿郎さんの顔を見ると、満足気な顔で私を見ている。