第13章 暖かく和やかに
「杏寿郎。お前は父親になるんだ。少しは落ち着け」
私の視線に気づき、助け舟を出してくれたのは槇寿郎様だった。けれども
「あら?あなたがそれを言ってしまいますか?私が外出する度に"杏寿郎に何かあったらどうする"と言って着いてこようとしたり、健診にも来なくて良いと言っているのにも関わらず"杏寿郎が元気か確かめたい"と言って毎回稽古を調整して来ていたのはどこのどなたです?」
と、瑠火様が捲し立てる様に言うと
「…今その話をする必要はないだろう」
槇寿郎様はそっぽを向き、そう言って黙ってしまった。杏寿郎さんも私も槇寿郎様の意外な姿に興味津々だ。
「槇寿郎様が…なんだか意外です」
「うむ。それに父上は、俺とは違い、昔とは言え2度も経験済みだったろう」
確かに杏寿郎さんの言う通りだ。私は槇寿郎様の方を見たが、相変わらずそっぽを向いている槇寿郎様はこの件について言及するつもりは無いようだ。
「槇寿郎様は当時炎柱でしたからね。私を心配する時間などそれ程なかったのでしょう。けれども、人々を守り、鬼を倒す為、戦う。そんなお姿が私は誇らしかった。ですからなんの不満も、そして不安もありませんでした」
そう微笑みながら言う瑠火様は、とても美しかった。
「瑠火…」
そんな瑠火様を、槇寿郎様は驚き半分、そして喜び半分という顔で見つめていた。
「だからこそ、今世でのあの姿には驚愕したものです。妊娠期間は確かに身体が思う様に動かなかったり、人によっては悪阻で苦しむ人もいます。ですが動ける様であれば、普通に生活し、出来ることは自分でしなければ出産する際、本人が苦しむことになります。杏寿郎、母のこの話を決して忘れないように。くれぐれもナオさんを困らせない様に気をつけるのですよ」
「はい、母上。肝に銘じておきます!」
杏寿郎さんが瑠火様を見すえ、素晴らしい返事をした一方で、槇寿郎様の視線は再びスッとあさっての方向を向く。まさか瑠火様が、槇寿郎様を上げて落としてくるとは…私はその様子が何ともおかしくて、肩を震わせ笑いを堪えるのに必死だった。
「……笑うな…」
「……笑ってなど…いません…」
そんな槇寿郎様と瑠火様の話を、他人事だと思って笑っていた自分を後悔する日が来る事をこの時の私はまだ知らない。