第13章 暖かく和やかに
赤ちゃんがお腹に来てくれた喜びを共有するかのように、杏寿郎さんと私はしばらくの間ただただ抱き合った。けれども、私はふと大切な事を思い出す。
「槇寿郎様と瑠火様に報告をしてあげないと…心配しているんですよね?」
「む!?」
杏寿郎さんは"すっかり忘れていた"と言わんばかりの反応を示す。
「早く報告して、安心させてあげましょう」
私がそう言って杏寿郎さんを抱きしめていた腕を離そうとするも、杏寿郎さんは中々その腕を緩めてくれる様子がない。
「どうか…しましたか?」
心なしが杏寿郎さんの顔はむくれているように見える。
「ナオの事を一番に理解しているのは俺でありたかったが、今回は父上と母上に完全に負けてしまったな…」
そう言って目線を下げる杏寿郎さんの姿に、私の胸はキュンと音を立てる。
…かわいい。しょぼくれた虎みたい。
なんとも愛おしい杏寿郎さんの姿に、私は背伸びをし、杏寿郎さんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「何を言っているんです?杏寿郎さんはいつだって私の1番の理解者であり、心から甘えられる唯一の人です。だからそんな顔をしないで下さい。ね?」
そう言って私は背伸びをし、グッと杏寿郎さんの頭を引き寄せ
ちゅっ
と軽く口付けた。
杏寿郎さんは私のその行動に驚いたのか、驚き固まっている。
「…ふふっ。杏寿郎さんかわいい。さ!行きますよ!」
今度は無事杏寿郎さんの腕から抜け出すことに成功した私は、杏寿郎さんの腕をパッと取り、強く手を握るとぐいぐいと引っ張り廊下を進む。
「…ナオには本当に敵わないな」
と後ろから聞こえた杏寿郎さんの言葉に、私の顔からは思わず笑みが溢れた。
杏寿郎さんと私が居間を覗くと、槇寿郎様と瑠火様はテーブルに座りお茶を飲んでいた。
「父上、母上。少しよろしいでしょうか?」
杏寿郎さんがそう声をかけると、2人は目線を上げこちらを見る。
「構わん。そこに座れ」
槇寿郎様は、杏寿郎さんと私に、槇寿郎様と瑠火様が座っている正面に座る様に言った。その指示通り2人並んで正面に座ると、杏寿郎さんはチラリと私の方に視線を寄越す。私がゆっくりと頷くと、
「父上、母上。ナオが俺の子身籠ってくれました」
と2人を見据え、よく通る落ち着いた声で言った。