第13章 暖かく和やかに
「…うそ…っ!」
早く杏寿郎さんのところに行かなくちゃ。
そう思うのに、嬉しさと、驚きと、様々な感情で胸がいっぱいになってしまい立ち上がる事ができない。けれども、きっと私と同じ様に、杏寿郎さんも不安に思いながら部屋で1人私がくるのを待っているはず。
身なりを整え、水を流し、検査薬を手に持ち私はトイレを出た。走り出したくなる気持ちをなんとか抑え、早歩きで杏寿郎さんと私の部屋に向かう。
ザッと襖を開けると、杏寿郎さんは座卓に両肘をつき、顎を乗せた状態で俯いていた。
「…杏寿郎さん」
私が名前を呼ぶと、杏寿郎さんはゆっくりと私の方に身体ごと向き直り
「どうだった?」
と少し緊張した面持ちで聞いてくる。
「…陽性…でした」
杏寿郎さんが大きく目を見開く。
「陽性?…と言うことは、君の腹に…俺の子が…いる…と言うことだろうか?」
「はい」
「俺が…父親になれるのか…?」
「はい」
杏寿郎さんはゆっくりと私の方に歩み寄り、私の前まで来ると膝立ちになり、下腹部にピタリと耳を寄せた。
「ふふっ。まだ流石に何も聞こえませんよ」
「…そうだな!嬉しすぎてつい先走ってしまった」
杏寿郎さんは恥ずかしそうに頬を人差し指でポリポリと掻き、明後日の方向を向いた。けれどもフと、真剣な顔つきになり
「無事に育ってくれると良いが」
と言いながら私の下腹部にまるで温めるかの様に、その大きな掌を当てた。
「…まだ病院にも行ってませんし、安定期に入るまではどうなるかわかりません」
妊娠し、無事に出産まで辿り着けると言うことは奇跡だ。
「だけどきっと、この子は大丈夫です」
それでも私は馬鹿みたいに自信があった。杏寿郎さんは珍しく、なんの根拠もない自信を示す私を不思議に思ったのか
「何故そんなに確信めいた事が言える?」
と首を傾げ問う。
「前に言いましたよね?今ある杏寿郎さんの幸せは、神様がくれたご褒美だって。だからきっと、杏寿郎さんがもうお腹いっぱいって思うくらい幸せな事がこれからも待っているはずです。…それに…」
「それに?」
「この子は元炎柱煉獄杏寿郎と、その唯一の継子柏木ナオの子です。強くないはずがありません!」
私のその言葉に杏寿郎さんは眉を下げ、ほんの少し涙を浮かべながら
「ありがとう」
と静かに言った。