第13章 暖かく和やかに
「ありがとうございました」
その声に、私がチラリとレジの店員さんをみると、なんとも言えない笑顔で私を見ていた。
「……すみません」
何故か謝罪の言葉を述べた私は、そそくさと杏寿郎さんの隣へ行き、エコバックに買ったものを詰め込む杏寿郎さんに体当たり気味に並ぶ。
「…杏寿郎さんの…ばか…」
「む?なんだ?」
有線で流れている流行りの音楽に紛れるほど小さな声で呟いた私の悪口は、杏寿郎さんの耳に入ることはなかった。
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「杏寿郎さんは…部屋で待っててもらえませんか…?」
検査薬を持ってトイレに向かう私の後ろをピッタリついて離れない杏寿郎さん。
「…ドアの前で待っていてはだめだろうか?」
その可愛らしい聞き方に、一瞬"良いですよ"と言いそうになる。けれども、よくよく考えると、私はこれから検査薬を使うために用を足すのだ。いくら検査薬を使うという目的があるとは言え、杏寿郎さんがドアの向こうにいる状況で用を出すのは…流石に無理だ。
「……だめです」
「むぅ。やはりそうか」
珍しく杏寿郎さんがあっさりと引き下がってくれたので、私は思わず拍子抜けしてしまう。
「では部屋で待っている。結果がわかったらすぐに来るように」
「はい…すぐに行きます」
トイレのドアの前に着き、私はくるりと回り一度杏寿郎さんの方に身体を向ける。目線を上げると、私の顔を眉を少し下げ優しげに見つめる目と目が合った。杏寿郎さんの身体に腕を回し、ぐりぐりと額をすり寄せると杏寿郎さんの腕も私の背中へと回った。
「行ってきます」
「ふっ…トイレにか?」
そう言って可笑しそうに笑う杏寿郎さんにつられ、思わず私からも笑みが溢れる。
「ふふっ、そうです」
「そうか!行ってくると良い」
すっと杏寿郎さんから腕を離し、私は身を翻しトイレのドアを開いた。
大丈夫。どっちの結果が出ても…杏寿郎さんがそばに居てくれる。
期待と不安の入り混じった気持ちで検査薬の箱を開け、ふたつ入っているうちのひとつの封を切る。勝手知ったる手順でそれに尿をかけ、畳んだトイレットペーパーの上に静かに置く。じわじわと水分が広がっていきあっという間に線が一本現れる。ここまではいつもと同じ。けれども
「…線が…2本…っ!」
くっきりと2本目の線が現れ、結果は"陽性"を示していた。
