第13章 暖かく和やかに
「…私仕事が忙しくなってストレスが溜まると生理が遅れる事は良くあるんです」
「それは把握している」
「…そうですか」
出来れば夫に生理事情なんて、把握されたくないところだが。
「まぁですから、きっといつもみたいに遅れてるだけです。だって私気持ち悪いとか具合が悪いとか全然ありませんよ?妊娠すると体調が悪くなったり、ご飯が食べられなくなったりするんですよね?私すごく元気ですよ?」
杏寿郎さんは私のその言葉を聞いて口をつぐんだ。けれども、何かを考える様に視線を左右に揺らした後
「…俺もそう思っていた。最近、以前よりもナオの寝起きが悪いのも、疲れているだけだと。だが父上と母上は違う」
と眉間に皺を寄せながら言った。
「…槇寿郎様と…瑠火様…ですか?」
何故ここで2人の名前が出てくるのか、私にはますます理解ができない。
「俺にナオが子を身籠っている可能性がないのかと聞いてきたのは父上と母上だ。母上は最近の君の様子で、父上は今日君が昼ご飯も食べずに縁側で眠っているのを見て、おかしいと思ったそうだ。見廻りでどんなに疲れていても、昼ご飯の時間になると必ず起きてきた君が起きないとはおかしいと、そう言っていた」
そう言うことか。なんとなく槇寿郎様が、瑠火様が、そして杏寿郎さんが言わんとすることはわかった。それでも私はすんなりとその言葉を受け止める事ができない。
「…でも…」
そう歯切れの悪い返事をすると、私の手を握る杏寿郎さんの手が離れて行き、今度は私の両頬を優しく包む。
「君は何をそんなに恐れているんだ?」
そう言って、私の目を優しく見つめる杏寿郎さんに、私の目の奥がじわりと熱くなっていく。
「…だって」
「なんだ?」
その"なんだ"の言い方が堪らなく優しくて、私は思わず杏寿郎さんにギュッと抱きつく。
「…実は私…今までに2回程…同じような症状を感じて…検査薬、使った事があるんです」
その言葉に、杏寿郎さんの身体がピクリと反応する。
「…でも…2回とも勘違いで…凄く…がっかりして…」
"杏寿郎さんとの赤ちゃんが出来たかもしれない"
その未来を想像すると、とても幸せだった。でも現実はそう甘くはなくて、赤ちゃんはそんなに簡単にお腹に来てはくれない。
「…期待…したくないんです…っ!虚しくて…辛くなるから…!」