第13章 暖かく和やかに
「ここに座ると良い」
杏寿郎さんがそう言って私に座る様に促したのは、杏寿郎さんがいつも持ち帰りの仕事や書き物をする時に使っている座椅子。その椅子の向きは、いつも座卓と向き合わさっているが、杏寿郎さんが私と向かい合って話すためか、いつもとは反対の方向を向いている。
私は言われた通りその椅子に腰掛ける。そんな私の正面に杏寿郎さんは胡座をかいて座ると、私の両手をその手で取り、じっと目を見つめられる。その様子から怒られる訳ではなさそうだとホッとしたが、それでもいつもとは違う重苦しい雰囲気に、私の胸は依然として騒ついていた。
「ナオに聞きたい事がある」
「聞きたい事…ですか?私、何か杏寿郎さんを怒らせる様な事を…してしまいましたか…?」
私のその問いに、杏寿郎さんは目を見開きキョトンとする。そしてその後不思議そうに首を傾げた。
「怒っている?俺が?」
「…はい。だって…電話の声はいつもより低かったし、自分で帰れるって言っているのに迎えに来ると言ったり…。少なくとも…私にはそう思えたんですが…違うんですか?」
私も杏寿郎さんと同じ方向に首を傾げる。それを聞いた杏寿郎さんは焦った様に
「怒ってなどいない!いや…怒ってはいるがそれはナオにではない!俺は、俺自身に怒っているんだ!」
ますます意味がわからなくなり、私の頭は疑問符で埋め尽くされる。
「…何かあったんですか?困っている事があったらなんでも相談してください…」
それと同時に、杏寿郎さんの身に何か良くないことでも起こっているのではないかと心配になった。
「心配させてすまない。俺はなんともない。ただ先程も言った通りナオに聞きたい事がある」
「…なんですか?」
一体何を聞かれるのだろうか。
「最後に月の物が来たのはいつだ?」
「……へ?」
何を聞かれているのか一瞬理解できず、間抜けな声が出てしまう。
「…月の物って…生理…ですか?」
「うむ」
なぜそんなことを聞くのか。そう思いながらも私はスマートフォンに登録してあるヘルスケアアプリを起動し、自らの月経周期を確認する。
「…えっと…2月の半ばに来たのが直近ですけど…」
「となれば通常であればもう来ていてもおかしくない時期だろう?」
確かにそうだ。それでも、この程度の遅れであれば私の中では日常茶飯事のこと。
