第13章 暖かく和やかに
春になり新年度を迎えた杏寿郎さんはとても忙しいのか、帰りが遅い日々が続いた。また、部活動で気になる生徒がいるのか土曜日も学校に行く事が続き、2人で過ごせる時間は去年に比べると少なかった。私が寂しい思いをするといけないからと、週末借りていた家も引き払い、煉獄家で過ごす様になった。それでも、平日の夜限られた時間、その日にあった事を話したり、最後までは行かなくても触れ合ったり、決して寂しい思いをする事はなかった。
その日は杏寿郎さんと千寿郎さんは部活、槇寿郎様は外部講師、瑠火様は月に一度の書道教室で私以外誰も煉獄家にいなかった。
この時期の煉獄家の縁側は最高に気持ち良いんだよね。お気に入りのブランケットと玄米茶とお煎餅を用意して、縁側で本でも読もっと。あ、ビーズクッションも忘れずに持っていかないと。
と、私は1人の今でしか楽しめない事を満喫することにした。
流石に槇寿郎様の前でこんな事をしたら怒られそうだと我慢していたが、いなければこちらのもの。
私はいそいそと読めずにいた本一冊とビーズクッションを部屋から持ってきて、縁側にボスンと置くと
「よいしょっと」
その上に半ば転がる様に横になった。
読み始めて30分ほど経つと急激な眠気に襲われ、ふわぁーっと大きな欠伸が出る。本の内容も、もうほとんど頭に入ってこない。
…風もなくて、日差しも気持ち良くって…ダメだ眠い。タイマーをかけて15分だけお昼寝しよう。
私は本にしおりを挟み、ビーズクッションをモゾモゾと良い感じの位置にずらし、ブランケットをかぶると目を瞑る。
少しだけ…少しだけ。
心地良い暖かさと、可愛らしい鳥の囀りを子守唄に、私の意識はあっという間に眠りの世界へと落ちて行った。
「おい」
……誰かに…呼ばれてる…?
「おい。起きろ」
でも…まだ眠いの…。
「っこら!ナオ!」
グラグラと肩を揺すられ、ハッと目が覚めた。驚きいて飛び起き、自分に掛かっている影の主を見上げると
「…槇寿郎…様?」
「こんなところで寝るやつがあるか」
槇寿郎様が呆れた顔で私を見下ろしていた。
「……何故…ここに…?」
「自分の家に帰ってきて何が悪い」
「今日は…午後にならないと戻らないんじゃなかったですか?」
「何を言っている。もう2時だ」