第3章 魅せられる【side-K-】
「失礼します!柏木ナオです」
よく通る声が自分のいる中庭まで届き、心なしか振っている木刀が軽くなったような気がする。
「待っていたぞ!こちらへ来てくれ!」
蝶屋敷から直接来たであろう彼女は小さな風呂敷に包んだ荷物と、本を数冊持っていた。その荷物を縁側に置かせて早速走り込みから始める。
いつもは1人で走っている道を誰かと一緒に走っていると思うと、自然と足取りは軽くなり走るスピードが速くなってしまっていた。
しまった。彼女を置いてきてしまっただろうか?
振り返ってみると着いて来れていないと思っていた柏木は、辛そうには見えたがきちんと後ろを走っていた。
走り込みを終えた後は素振りを行う。
休憩も取らず次の稽古に移ることに対しても柏木は文句ひとつ言わず取り組んでいる。
今までここに来た隊士は大体がもうこの辺で根を上げたり、ひどい場合は途中で逃げ出す場合もあった。回数を重ねるにつれ、柏木も素振りのペースが落ち明らかに疲れを見せてはいたが、それでも手を抜いたり素振りを嫌がる様子は全く見られなかった。
やはり太刀筋が美しい。炎の呼吸を使ったらさぞ美しい炎を纏うだろう。
最後は打ち込み稽古。女性の中でも小柄だと思われる柏木と自分は体格差がかなりある。初めの方は受け身で精一杯の様子だった柏木も途中からはかなり積極的に、そして良い打ち込みをしてくるようになった。強く、速く打ち込んでもその身体を上手く使い食らい付いてくる。
こんなに充実した稽古はいつぶりだろうか。やはり俺はこれからも柏木と稽古がしたい!弟子に取ろう!それ以外の選択肢は存在しない!
そうと決まれば後は柏木をどう丸め込むか。何か良い作戦はないかと考えたが、彼女の顔を見る限りそんな作戦は必要にはならなそうだ。
彼女は絶対に首を縦に振ってくれると確信がある。これから共に稽古をし、成長する柏木の姿、そして自分の姿を想像しこれから訪れる未来に胸が高鳴った。
そしてやはり、柏木の目を丸くして驚く顔は可愛らしい。だがあの様子だと、予想通り煉獄家に住んでもらうのは難しそうだ。少しでも長い時間稽古を共にしたいのだがな。
よもやよもや。