第3章 魅せられる【side-K-】
悩んでいる様子の柏木と少々強引に約束を取り付け、逃げるようにあの場を後にした。自分の持った印象に過ぎないが、柏木は約束を違える人間には見えないし、向上心も強いように思う。だから必ず来るだろう。柏木の身体が回復し、共に稽古ができる日が待ち遠しかった。
それから柏木の烏から退院の日程が決まったと連絡があったのは割とすぐの事だった。すっかり自分や要に懐いた烏は、柏木にここへ来ることを伝えず勝手に来たらしい。だがそれも、主人を思っての行動であることを最後に会った時の会話から理解している。
「千寿郎、明後日なんだが隊士が1人ここへ稽古にやってくる。そして俺と共に稽古をする手筈になっている。だからすまないがその日は稽古を見てやれない」
「本当ですか?それは喜ばしいですね!誰かがここに稽古に来てくれるなんて久々のことですからね‥」
そう。まさにその通りで、以前は自ら志願した隊士が稽古に来ることが度々あったが、稽古が厳しすぎるのか皆すぐに来なくなってしまった。
「うむ!とてもいい眼をしていてな、実はそのまま弟子にする予定だ!」
「弟子ですか!と言うことはここに住むことになるのでしょうか?」
「うむ!そうして貰うつもりだ!」
その方が共に鍛錬する時間も多く取れ、より早く柏木を鍛えることができるし更には信頼関係も築ける。
「それは楽しみです!‥ですが父上は大丈夫でしょうか?」
千寿郎の眉が不安そうに下がる。
「心配無用だ。父上に話をしたら、どうでも良い、好きにしろとの事だった」
"どうでもいい"と言われるのは辛いものがある。だがしかし、そう言うのであれば好きにさせてもらおう。
「そうですか‥では今日中に部屋を片付けておきます」
「うむ!俺も手伝おう!」
正直言ってここに住んでもらうのは無理だろう、と思ってはいたがまぁ願掛けのような気持ちで千寿郎と共に部屋の片付けを行った。
稽古の当日、要を蝶屋敷まで迎えによこし柏木が到着するのを待った。楽しみもあってか妙にそわそわしてしまい先に1人で素振りを行なう。
これではまるで子どものようだな。
自嘲しながらも手は休める事なく今か今かと到着を待つ。
程なくして要が戻ってくる気配を感じそちらを見上げる。