第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
杏寿郎さんの着付けも終わり、いよいよ紋付袴に袖を通した杏寿郎さんとのご対面だ。ハナエさんに手を引かれ、長い渡り廊下まで来ると、少し先に杏寿郎さんの後ろ姿が見えた。その後ろ姿を見ただけで、私の目にはじわりと涙が込み上げて来てしまう
「それじゃあ、ここからはナオさん1人で行ってね。…え、待って待って、まだ泣いたらダメよ?お化粧が崩れちゃう…っ!」
「…そんなぁ…無理ですぅ…」
結局堪え切る事が出来ず、両方の目からつーっと涙が伝い落ちてしまった。
「あらあら。もぅ、しょうがない子ねぇ」
そう言いながらハナエさんはウェストポーチから道具を取り出し、ポンポンと私の少し崩れてしまった化粧を直してくれた。
「はい、これで大丈夫!」
「…すみません」
「良いのよ!これが私の仕事なんだから!じゃあ気を取り直して、行ってらっしゃいナオさん。…今度こそ我慢よ!」
そうガッツポーズをするハナエさんに、私も小さくガッツポーズを返し杏寿郎さんの方へと歩みを進めた。
私は杏寿郎さんの元へ歩みを進めながら、これまでの事を思い出していた。
家族を失って、ハナエさんを失って、気付いたら失うものすらなくなっていた。鬼殺隊に入隊してからも他人と距離を取って、1人で生きていくと決めていたはずなのに。そんな私の前に杏寿郎さんは、ある日突然現れて、それから沢山の幸せを、強さを、愛を教えてくれた。杏寿郎さんを失ってしまった時、消えて無くなりたいと思った時もあった。けれども、こうして再び巡り会えて、今こうして、なんのしがらみもなく愛を伝い合える。
幸せだなぁ。
「杏寿郎さん」
私の声に杏寿郎さんはゆっくりと振り返る。
「…っ!」
目が合うと、杏寿郎さんはその目を見開き、一瞬固まった。けれどもすぐ、眉を下げ、普段は釣り上がっている意志の強そうな目を優しく細め、
「よもや、白無垢を着た女神が現れたのかと思った。…ナオ、とても綺麗だ」
そう言うと、私の方へとゆっくり、けれども確かな足取りで近づいてくる。その姿は、本当に、本当に言葉にするのも難しいくらい素敵で、私の足は床にくっついてしまったかの様に動かなくなる。
「…杏寿郎さんこそ、とっても素敵です。…素敵すぎて、隣に並ぶのか恥ずかしい位です」