第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
「…ハナエ…さん…?」
私の極小さな呟きが聞こえたのか、杏寿郎さんは眉をピクリと動かした後、足早に私の方に向かってくる。
きっと、どこかで幸せに生きててくれていると信じていた。いつか会えたらいいなと、心のどこかで願っていた。じわじわと込み上げてくる涙を堪える事が出来ず、私の目から涙がこぼれ落ちてしまう。
そんな私の様子を、ハナエさんの生まれ変わりと思わしき女性と、おそらくそのご主人が不思議そうに、そして心配そうに見ていた。
杏寿郎さんは私の震える肩を抱き、まるで"落ち着け"と言っているかのようにその手に力を込める。
「妻は少々具合が悪いようだ。すまないが、少し時間をもらっても良いだろうか?」
「私達はかまいません。着付けを急げば挙式には十分間に合いますので。カメラの最終チェックでものんびりさせてもらいます」
「私も大丈夫です。ただし、なるべく目を擦ったりするのは…させないようにお願いします!せっかくの挙式なのに、目が腫れてしまったら大変!」
「承知した。では、ナオ、少し廊下で話すとしよう」
杏寿郎さんは、なんとか頷き返事をする私の肩を抱きながら背中を優しく支え、開けっ放しにしてあった扉を通り
「すぐ戻る」
と言って扉を閉め、私の方に振り向いた。杏寿郎さんは私の両肩に手を置き目線を合わせると
「彼女が、君がかつて共に暮らしていたという"ハナエさん'''なのか?」
と扉の向こうにいる2人に聞こえない様に、小声で私に聞く。
「…はい…きっと…うぅん、絶対に…あれはハナエさんです…」
あの明るくて優しい笑顔。耳心地の良い声。共に過ごした時間は長くはなかったが、あれは絶対に生まれ変わった今世でのハナエさんに間違いない。
「…そうか…ほら、目を擦るんじゃない」
杏寿郎さんは目をゴシゴシと擦ろうとする私の手をパシっと捕まえ、代わりにポケットからハンカチを取り出しとても優しい手つきで涙を拭う。
「ナオが落ち着くまで待ってやりたい。しかし、時間は限られてしまっている。…大丈夫か?」
杏寿郎さんは申し訳なさそうに眉を下げ、肩から離した右手を私の頬にあて、私の目をじっと見る。
「…っごめんなさい…あまりにもビックリして…っ…まさかこんな所で会えるなんて…夢にも思ってなくて…」