第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
「杏寿郎さん」
「なんだ」
「向こうを向いてて…もらえませんか?」
普段は出さない甘えたような声を出し、杏寿郎さんに、なんとかこちらを見るのをやめてもらえないかと誘導を試みるも
「かわいいな。だが断る!」
と言われ、更には
「俺は君に、先と後のどちらに入りたいかきちんと聞いたはず。君が好き好んで後に入るのを選んだのであろう?」
と、ニッコリと微笑む杏寿郎さん。普段であれば愛しくてやまないその笑顔も、今の状況では意地の悪い笑みにしか見えない。こうなったら何か交換条件で、と一瞬思ったが、今までの経験上、交換条件で良い結果を産んだ事は一度たりともない。どちらかと言えば、より恥ずかしい、そして疲れる(激しく抱かれる)結末を迎える。
「…杏寿郎さんの意地悪」
「わはは!好きに言うと良い!」
もう諦めよう。
そう決心した私は、なるべく杏寿郎さんの方に背を向け、"前を隠して後ろ隠さず"作戦に移行する事にした。
「うむ!相変わらず良い尻だ!」
「もう!見ても良いから、せめて黙っててくださいっ!明日は絶対に私が先に入りますからね!」
頭と身体を洗うだけなのに、ひどく疲れてしまった(主に心の方が)。
「ようやく終わったな!ほら、おいで」
お団子で鍛え抜かれた身体で水も滴るいい男…杏寿郎さんか私に向かって腕を広げている。もし今私が裸でなかったら、走り寄ってすぐにでも抱きつきたいところだ。けれども、辛うじてその願望に打ち勝った私は、ゆっくりと露天風呂に近づき、なるべく杏寿郎さんに身体を見られないようにしながら湯船へ身体を沈め、その状態のまま杏寿郎さんの隣へ移動する。人一人分の隙間を開けて隣に腰掛けた私を
「…ひゃっ…!」
杏寿郎さんがそのままにするはずもなく、グッと引き寄せられその腕の中に閉じ込められる。
「そんなに離れてしまっては寂しいではないか」
そう言って私を背後から抱きしめる杏寿郎さんに、私は思わずその腕から逃げようとしたものの、杏寿郎さんの力に勝てるはずもなく甘んじてその抱擁を受け入れるしかなかった。
しばらくその体制のままでいると、段々とこの状況にも慣れて来る。ただ純粋に、この気持ちの良い露天風呂を味わう余裕も出て来た。
「少しは落ち着いたか?」
「…はい」
身体に染み渡る温泉の暖かさに、私の身体からはすっかり力が抜けていた。
