第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
「…っ!」
耳から体の芯まで響くような杏寿郎さんの甘い声に、私の身体は思わずピクリ反応してしまう。
先か、後か、同時か。
そんなことを聞かれるとは思っていなかった私は答えることが出来ず口をつぐむ。けれどもどの選択肢が1番私にとって良いのか、頭の中はフル回転で動いていた。
同時は論外として…先…の方が良い?でも前に杏寿郎さんが温泉は長く入るって言っていたから、先に入ったら私がのぼせてしまいそう。後…だと、のぼせるのは避けられるし、心の準備もできる…けど身体を洗うところを見られたり…
「ほら、早く答えなさい」
杏寿郎さんはそう言うと、私の正面に周りじっと目を見つめてくる。
「…待ってください…っ…今考えているので…」
そう言っているのにも関わらず、杏寿郎さんはじりじりと顔を近づけて来る。目をじっと見つめられ、どんどん近づいてくる顔に私の心臓はドクドクと大きな音を立て、正常な思考を奪われて行くようだ。
「答えないのであれば…俺が後から入る。それで良いな?」
もう間も無く杏寿郎さんの鼻と、私の鼻がくっ付いてしまうのではと言う程近づき、杏寿郎さんは最後のチャンスだと言わんばかりにそう言った。
杏寿郎さんが自ら後に入ると言う事は…何か狙いがあるはず。
「…待ってください!私が後、後に入りますっ!」
ならばその狙いを阻止しなければと、私が慌ててそう言うと、杏寿郎さんはニヤリと口の端を上げ、その後いつもの表情に戻ったかと思うと
「そうか。ナオがそうしたいと言うのであれば仕方あるまい。俺は先に入らせてもらうとしよう!」
と満面の笑みで言った。
あぁ。これはダメだ。これは絶対に選択を誤った。
私は杏寿郎さんのその顔を見て、自分がまんまと杏寿郎さんの術中にはまっていた事に気付く。
「…あ…あの、やっぱり「では俺は先に風呂に入って来るとしよう」」
私の言葉を遮った杏寿郎さんは、さっさと私の元を離れ、浴衣と下着を手にし、露天風呂へと向かって行ってしまった。1人取り残された私は、ワンピースの裾をギュッと握り杏寿郎さんの背中を見送るしかなかった。