第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
「…すみません。…もう大丈夫です」
私は杏寿郎さんの胸に埋めていた顔上げ、鼻をスンスンとすする。
「謝る必要はない。嫌な夢でも見たのか?」
杏寿郎さんは先程よりも腕を緩めはしたものの、それでも私の身体を離そうとはしなかった。けれどもその声色はひどく優しいもので、私の心に安心感をもたらすには十分過ぎる程だ。
「…ちょっと…さっきの女性の事と、電車に乗ってると言う事で…過去に気持ちを引っ張られすぎたみたいで…」
杏寿郎さんは、私がそう曖昧に答えたのにも関わらず
「…俺がいなくなる夢か?」
と、いとも簡単に見透かしてしまう。
勝手にそんな夢を見て、勝手に泣いて…呆れられちゃうかな。
そんな不安が胸をよぎり、返事をすることが出来ず、私はただ黙ってコクリと頷いた。
杏寿郎さんは再び私を抱きしめる腕に力を込め
「そうか」
と静かに呟いた。
しばらくの沈黙の後、杏寿郎さんは私の身体から腕を離したかと思うと、私の頬をその両手で掴み、
「大丈夫だ。約束しただろう?俺は決してナオより先に死んだりはしない。側を離れることもない。…怖がる必要など何処にもない」
一瞬たりともその目を逸らすことなく言った。私は少しでも杏寿郎さんとの物理的距離を埋めたくて、自ら杏寿郎さんの首に腕を回しギュッと抱きつく。
「…はい…。絶対に…絶対ですよ?」
「うむ!絶対だ!」
杏寿郎さんはそう言って、私の頭をグッと掴み、身体から離すと
ちぅ
と、私に口づけを落とした。
杏寿郎さんの唇が触れた瞬間、不思議と私の胸をくすぶっていた不安がフワリと何処かへと飛んで行き、先程止まったはずの涙が、再びじわりと込み上げ、ツーッと頬を伝いこぼれ落ちる。
「…よもや。今度は何故泣いている?」
杏寿郎さんは眉を下げ、"どうしたものか"と言わんばかりの困り顔で私を見る。私は流れてきた涙を拭いながら
「…大丈夫です。…安心したら…不思議と涙が出て来てしまっただけです…」
と答え、今度は自ら杏寿郎さんへと口付けた。
周りに人が居なかったから良いものの、よくよく冷静になって考えてみればここは特急電車の中だ。公共の場で私は一体何をしているのだろうと頭を抱える私の横で、杏寿郎さんは満足気な表情で本の続きを読んでいるのだった。