第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
杏寿郎さんのその厳しい言葉に、女性はカッと目を見開いたかと思うと
「…ばっかじゃないの!」
と、捨て台詞を吐き逃げるように去っていった。その何とも子どもじみた言動に、私はポカンとする。
「…何だったんですかね…」
「…あの女性には何度も声をかけられた事があったと記憶している。せっかくの大切な日に、ナオに嫌な思いをさせ、言いたくもないであろう台詞を言わせてしまった。…不甲斐ない」
杏寿郎さんはそう俯きがちに言うと、拳を作り、その手が白くなる程強く握りしめていた。私はその左手を両手で優しく包み込み、
「杏寿郎さんが謝る必要なんて何処にもありません。…まぁでも、敢えて謝って頂くとしたら、たくさんの女性を惹きつけてしまう杏寿郎さんの素敵過ぎるという点ですかね」
そうおどけながら言った。身体を傾け、杏寿郎さんの顔を覗き込むと、杏寿郎さんはまだ眉を下げ顔をしかめている。
「私、自分の大切なものは自分で守る主義でして。それにあれは私が言いたくて言った事。…だって杏寿郎さんはもう、"私の"杏寿郎さんですからね」
そう言って杏寿郎さんの薬指にはめられた、結婚指輪をサラリと撫でると
「…そうだな。俺の心も身体も、全てナオだけのもの!無論、君も俺のものだがな!」
そう言って杏寿郎さんも、私の左手を取り、私がしたのと同じように結婚指輪を撫でた。
「ふふっ。そうですね。それじゃあ、気を取り直して…駅弁、見に行きましょうか」
杏寿郎さんは満面の笑みを浮かべ
「うむ!」
と嬉しそうに言った。
「あ!くれぐれも電車内ではお静かにお願いしますね?」
「善処する!」
私は苦笑いを浮かべながら"本当に…大丈夫かな?"と思わず心の中で呟いた。
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杏寿郎さんと私は肩を並べ、目的地へと向かう特急電車に揺られていた。"うまい!"と叫ぼうとする杏寿郎さんをギリギリのところでなんとか制し、食事を終えた杏寿郎さんと私はそれぞれ読み物に耽っていた。けれども食後の満腹感、電車の揺れの心地よさ、そして週末で疲れていることもあり、私の瞼は段々と落ちてくる。
「眠いのか?」
「…はい…本の内容も…あんまり頭に入って来ません…」
ウトウトしては戻り、ウトウトしては戻りを繰り返すこと数回。気づくとさっきから1ページも進めていない。
