第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
何だか既視感のある状況だなと思った。
そうだ。あの時だ。杏寿郎さんが助けた遊女に口付けられた時の状況と似てる。
あの時は、ただ見たくない光景から逃げる事しかできなかった。でも今は違う。杏寿郎さんと私は正真正銘の夫婦で、少なくとも今の私にはあれを止める権利があるはず。
「杏寿郎さんお待たせしてすみませんでした。こんにちは、大変失礼ですがあなたはどちら様でしょうか?」
杏寿郎さんにそう告げてから、私はなるべく丁寧な口調で、ニコリと微笑みながら女性にそう聞いた。
「…っ私が誰であろうと貴方には関係ないでしょう!?それより、貴方、本当に煉獄さんの結婚相手なの?」
「結婚相手と言いますか、…私は杏寿郎さんの妻ですがそれか何か?」
相手を挑発するような嫌な言い方だな、とは思ったが、相手がそういう態度で来ているんだ。私が遠慮する必要なんてない。
「…っ!」
私のその言葉に女性はカッと顔を赤くし眉を吊り上げる。杏寿郎さんが口を開こうとするのをチラッと目線を送る事で制する。
「何なのよ貴方!?私は昔からずっと煉獄さんが好きだったの!急に現れて…貴方が煉獄さんの何を知っている訳!?どうやってこの人をたぶらかしたのよっ!私がどれだけお願いしても…連絡先すら教えてもらえなかったのに…っ!」
そう怒鳴るように言う女性に、
「そうですか。けれども残念ですが、私は恐らく貴方より、もっと昔から杏寿郎さんの事が好きでしたし、杏寿郎さんの事を誰よりも理解しているのは私だと自負もしております。残念ですが、誰にも杏寿郎さんをお譲りすることは出来ませんし、するつもりも毛頭ございません。…ですのでお引き取り下さい」
ニコリ、と渾身の笑みを浮かべそう告げた。
「…たいして美人でもない癖に…なんな「ナオ」…!?」
更に言い返してこようとする女性の言葉を遮り、払い退け、杏寿郎さんが私の方へと歩み寄り、女性から庇うように私の前に立つ。
「先程も言ったが、俺は君の名前すら知らない。これ以上俺の妻を侮辱するようであれば、例え相手が女性とて許せない。すまないが、俺が我慢出来なくなる前にナオの前から消えてはもらえないだろうか?」
杏寿郎さんも杏寿郎さんで、言い方はとても丁寧だが、物凄く怒っている事がその背中から伝わって来た。