第12章 変わらぬ愛をあなたに誓う
「兄上、ナオさん!行ってらっしゃいませ」
「素敵なお写真待っていますよ」
「2人とも、気をつけて行くように」
千寿郎さん、瑠火様、そして槇寿郎様に見送られ、杏寿郎さんと私は2泊3日の新婚旅行件、挙式へと出発する。
「「行って参ります!」」
お互いに金曜日に結婚休暇をとり、金、土、日の3日間をかけて、杏寿郎さんと私は電車で3時間程で行ける温泉街へと旅行に行く。私にとって、かつて叶えることが出来なかった"杏寿郎さんと電車で新婚旅行に行く"という部分がとても重要で、車で行った方が楽とは分かっていたが、どうしても杏寿郎さんと2人並んで和やかな列車の旅をしてみたかった。そんな私の我儘を杏寿郎さんは少しも嫌がる様子を見せず、"駅弁が沢山食べられる!"と満面の笑みを浮かべて了承してくれたのだった。
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「杏寿郎さん、私電車に乗る前におトイレに行ってきても良いですか?」
「うむ!では俺は駅弁を見ながら待っていよう!」
「ふふふ。流石にまだ駅弁を買うのには早いですよ」
「駅弁の文字を見ると自然と腹が空くんだ。仕方あるまい!」
まだ出発して30分も経っていないのに、早速駅弁を気にし出す杏寿郎さんを"かわいいな"なんて思いながら、私は少し離れた場所にある女子トイレへと向かった。
杏寿郎さんの待つ駅のホームに戻り、目に入ってきた光景に私は思わず足を止める。
杏寿郎さん…と、誰?……凄く綺麗な女性。
杏寿郎さんにグッと身を寄せ、どこか興奮した様子で話す女性と、それを見下ろす珍しく無表情な杏寿郎さん。何故か杏寿郎さんは両腕を挙げバンザイの姿勢になっており、よくよく様子を観察すると、その女性は杏寿郎さんの腕を掴もうとしており、杏寿郎さんはそれを避けるために両腕を挙げているようだった。この状況から、何となく察しはついた。
あの人…杏寿郎さんに好意を寄せているんだろうな。
このまま放っておく訳にもいかないし、正直言ってあの女性が杏寿郎さんにくっ付いているのは不快だ。私は一度"はぁ…"と大きな溜息をついてから、肩からずり落ちていた鞄を持ち直し、ツカツカと2人へと近づく。
「…っナオ!」
私に気が付いた杏寿郎さんは、先程までの無表情がまるで嘘のようにぱっと表情を明るくする。それとほぼ同時に、女性がギロッと私を睨む。