第11章 待ち侘びた日々
「お待たせしました」
そう言った店主が私と杏寿郎さんが座るテーブルに、箱に収められたあの指輪を静かに置く。
「ご主人、はめてみて頂けますか?」
「うむ!」
杏寿郎さんはその箱から、杏寿郎さんの方の指輪を右手でスッと取り出し、左手薬指へと持っていく。段々と指輪をおろして行くと、私と同様に第二関節で引っ掛かりを見せたが、そのまま無事はまった。
「大丈夫そうですね」
「不思議だ。先程は第一関節までしか入らなかったのに、今度は最後まではまってしまった」
「本当に…不思議ですね」
「指輪を伸ばしたので、目視では気付くのが難しい程度に指輪は細くなっております。けれども品質的には何も問題はなく、延ばす前と同じです。安心して、付けて頂いて結構です」
杏寿郎さんの指にはまった結婚指輪は、先程よりも一層素敵に見えるから不思議だ。
「それでは今度は奥様の方もどうぞ」
その言葉に、私はワクワクと胸を弾ませながら指輪へと右手を伸ばした。
「待ってくれ」
それを止めたのは他でもない杏寿郎さんだ。
「…どうかしましたか?」
不思議に思い、私は首を傾げながら杏寿郎さんに問う。すると、杏寿郎さんはその手で私の手をギュッと掴み
「俺に、はめさせて欲しい」
と、私の目をじっと見つめ言った。
「…っ!」
杏寿郎さんの思わぬ提案に、すぐに返事をする事が出来なかったが、そんな嬉しい提案を断るはずもない。
「お願い…します」
左手を差し出しながら言うと、杏寿郎さんはニコリと微笑み、私の指輪をとても大事そうに箱から取り出し、スッと私の左薬指へとそれをはめた。
"ほぅ"とため息をつきながらその光景を見つめていると
「…ナオが、俺の妻という印だな」
普段の様子とは違い、微笑みながら静かに言った杏寿郎さんに、私の胸はギュッと甘く締め付けられる。
「本当に、仲がよろしいご夫婦ですね」
「っ最高の、旦那様です!」
そう答えた私に店主は一度目を丸くした後、ニコリと微笑み
「末長くお幸せに」
と言った。
帰ってきたと思ったら、結婚指輪をはめ、部屋まで借りてきたと知ったら、槇寿郎様にまた呆れられてしまいそうだ。けれども、瑠火様や千寿郎さんに早くこの指輪を見せたいと思う私は、ニマニマとにやけそうになる顔を抑えながら、早く煉獄家に帰りたいと思うのだった。