第11章 待ち侘びた日々
「結構時間がありますねぇ…どうしましょうか?」
考えてはみたものの、これと言って買いたい物も思い浮かばなければ、行きたい場所も思いつかない。強いて言えば、昨日の行為で身体が重いので休みたい、と言ったところか。
「むぅ…」
杏寿郎さんは顎に手を当て、じっと考えている。と、何か思いついたのかパッと顔を明るくし私の顔を見た。
「ここまでの道すがら、不動産屋があった!そこへ行こう!」
「不動産屋ですか?…本当に…部屋を借りるつもりなんですか?」
「無論だ。昨夜のナオとの行為でより一層2人きりで過ごす部屋が欲しくなった。昨日の君は本当に可愛らしく、そしていやらしかった!」
「…っちょっと!!」
思わず私は杏寿郎さんの口を両手で塞ぎ、慌てて周囲に人がいないかを確認する。少し離れたところにカップルと思わしき男女が一組いたが、話に夢中で杏寿郎さんの"いやらしい"発言は耳に入らなかった様だ。私は顔を真っ赤にしながら
「何言っちゃってくれてるんですかこんな所で!」
小声で怒る私に全く動じない様子の杏寿郎さんは
「やはり君のアパートは壁が薄い故、気を使うだろう?もっと防音に優れた、家族向けの物件を探す」
と、あっけらかんと言った。
「で…でも、お金がもったいなくはないですか?」
「今君が借りている家は家賃が5万程と言っていただろう?それと同等の金額の物件で有れば問題あるまい!」
私にはわかる。こうなった杏寿郎さんは絶対に意見を譲らない。何が何でも部屋を見つけ、引越しに漕ぎ着ける。
「……っ好きにして下さい…」
「うむ!」
キラキラと輝きそうな程の最高の笑顔を向けられた私は、ガックリと肩を落とし項垂れるしかなかった。
不動産屋に到着し、1時間で私達の週末に過ごす部屋が決まった。
"マンションタイプ"
"音漏れに優れた部屋"
"家賃6万"
"1LDK"
"風呂トイレ別"
杏寿郎さんが食いつかない筈なかった。
外に張り出されたその間取りの書かれた紙を見るや否や、不動産屋のドアを開け「あの物件を見せて欲しい!」と大声を出す杏寿郎さんに、不動産屋にいた全員がこちらを振り向いた。そんな視線を浴びた私は「…すみません」と小声で言う事しか出来なかった。
実際に物件を見に行き、杏寿郎さんは即決でその部屋を契約したのだった。