第3章 魅せられる【side-K-】
蝶屋敷の門を潜ると、外にはもう屋敷の主人が待ち構えていた。
「烏から話は聞いています。急いで治療をするので彼女をこちらへ連れてきてもらえますか」
「あいわかった!」
引き渡す時間も惜しかったのだろう。あの場を出発した時よりも更に顔色が悪くなった彼女を病室まで運び、医療用の寝台に慎重に横たえる。
「彼女を頼む」
「お任せ下さい」
治療を始めるのであっては自分は邪魔者にしかならないと思い素早く部屋を出る。すると自分と入れ替わるように数人が中へと入る。
ピタリと閉まった扉を見つめ、ただ彼女の無事を願うことしかできなかった。
どのくらい経っただろう。彼女の容態が気になり帰る気にもなれず処置が終わるのをじっと待つ。そのうちガラリと扉が開き、屋敷の主が出て来た。此方の姿を確認し、少し驚いた表情をしている。
「待たせてしまったようね。‥柏木さんは、取り敢えず命に別状はありません」
それを聞きひとまず安心した。
彼女の名は柏木と言うのか。そう言えば烏が名を呼んでいた気がするがなんと言っただろうか。
「お顔、見て行くかしら?」
「可能ならばお願いしたい!」
なるべく音を立てないように中に入り、彼女が寝かされている寝台の横まで進み顔を覗く。身体は包帯だらけで、腕には点滴。顔色もまだ悪い。けれど彼女を羽織に横たえたときのような苦しそうな感じはなくなり、穏やかに眠っているようだ。
「柏木さんとあなたは親しい間柄なのかしら?」
「いや、今日が初対面だ!だが今後そうなれればと思っている!」
「あらあら」
無意識に出た言葉に自分自身でも少々驚きもしたが、まぁ嘘ではない。彼女がどんな人物なのか、どんな剣士なのか知りたいと思った。
「差し支えなければ、彼女の目が覚めたら烏を飛ばして貰えないだろうか?」
「えぇ。わかったわ。でも早くても4、5日は掛かるんじゃないかしら」
「構わない!では俺は帰るとしよう。長居してすまなかった!」
外に出ると辺りはもう白み始めていた。ガサッと葉が擦れた音の方を見ると彼女の烏がこちらを見ていた。
「君もご苦労だったな。彼女の命に別状はないそうだ!安心すると良い」
烏が足元へ飛んでくる。
「‥ナオ、なんでも1人でやろうとする」
その小さな呟きに、聞き逃さないよう耳を傾ける。