第11章 待ち侘びた日々
「杏寿郎さん、私おトイレに行って来ますね」
たくさんお喋りをして喉が渇いていたのか、飲み物を飲み過ぎてしまったようだ。急に姿を消したら心配しそうだなと思い、宇髄様や不死川様、伊黒様、そして冨岡様と楽しそうに話していた杏寿郎さんの邪魔をするのは憚れだが、念の為にと思い声をかける。
「場所はわかるか?」
「はい!来る途中に通った所ですよね?大丈夫です」
「うむ!もし迷子になったら電話を寄越すように!」
一本道でどう迷子になると言うのか。"相変わらず杏寿郎さんは心配性だな"と心の中で思いながら
「はい。行ってきます」
と言い、私は1人教室を出た。
トイレを済ませ、先程の部屋へと向かっていると、遠くからでもその楽しそうな声が聞こえて来た。特別教室に到着し、後ろのドアから中を覗くと、そこにはやはりとても楽しそうなみんなの姿が。
顔を合わせると毎回頭をポンとしてくれた悲鳴嶼様。
記憶障害が治り、杏寿郎さんにお線香をあげたいと尋ねて来てくれ、その後も頻繁に話しかけてくれた時透様。
会うたびに"煉獄はいい奴だった"と言って思い出話をしてくれた冨岡様。
みんな何かしら心の傷を抱えながら鬼と戦っていた。仲間を失い、涙を流し、傷だらけになりながら、長い長い夜の闇を駆け回った。そんなみんなが、ただ普通に笑って過ごせる今が、とても幸せで愛おしい。
あまりにも幸せな光景に、胸の奥から熱いものが込み上げ、気付くと私の目からは涙が溢れていた。
こんな楽しい空気の中、泣いているなんて…おかしいよね。
私は中々止まってくれそうにない涙を落ち着かせる為、来た道を戻ろうと踵を返した。
その時、フワリと大好きな香りが私を包む。
「どうした?なぜひとりで泣いている?」
「杏寿郎さん…どうしたんですか?」
「どうしたは俺の台詞だ。中々ナオが戻ってこない故様子を見に来た。それで、君はなぜこんな所で1人泣いている?」
そう優しくて問う杏寿郎さんの腕に、私もそっと手を添える。
「…何でも…ないんです。ただ…皆さんが…楽しそうに笑っているから…嬉しくて、幸せで…涙が出てしまったんです…」
杏寿郎さんは私のその言葉に、私を抱きしめる力をギュッと強めた。
「…そうか。俺も同じだ。君が皆と楽しそうに笑っている事がこの上なく嬉しい。少々妬いてしまう程な!」
